浙江大学のLingli Luo助教、早稲田大学 商学学術院の山野井順一教授、香港中文大学のXufei Ma教授、浙江大学のLinan Lei助教の研究グループは12月23日、海外からの直接投資が起業を一様に促進するのではなく、産業や地域、投資の蓄積水準によってその効果が強まったり弱まったりすることを理論と実証の両面から示したことを報告した。

○過去の研究で分かっていたこと

海外からの直接投資は現地の起業を促進するのか、あるいは抑制するのかについては、議論が分かれている。
実証結果についても、両者をそれぞれ支持するものがある。外国企業は新規企業にとって手ごわい競争相手となり得るため、起業の芽を摘むという「競争の脅威」としての側面がある一方で、外国企業は現地国に優れた技術や人材を提供する「学習の機会」としての側面も持つ。

しかし、これらのどの効果がどのように働くのかについては、既存研究が主として国レベルの分析にとどまっていたため、十分な解明には至っていない。さらに、海外からの直接投資が起業に与える影響が産業間や地域間の壁を越えて波及するかについても、十分には分析されていない。

加えて、国レベルの分析の場合は、制度環境の差異を捉えることが難しく、制度環境によって海外からの直接投資と起業の関係性がどのように異なるのかについても十分な分析が行われていない。
○今回の研究の概要

多くの先行研究は国レベルで海外からの直接投資と起業との関係を分析している。しかし、海外からの直接投資は特定の産業や地域を対象として行われるため、同一国内の地域間や産業間では海外直接投資にはばらつきが存在する。そのため、それらを合算した国レベルでの分析では、地域間・産業間での海外直接投資の差異が反映されず、海外直接投資による起業への影響が見えにくい。

今回の研究は2013年から2023年の中国を対象として、中国国内における海外からの直接投資と起業の関係を、省および産業レベルまで分解して分析した。これにより、省・産業レベルにおける海外からの直接投資と起業との関係性に加え、隣接する省や関連産業への海外からの直接投資が、省や産業を超えて波及する効果についても分析している。さらに、中国の省ごとに制度の違いを考慮することで、海外からの直接投資と起業の関係性に対して、制度環境、特に市場経済化が与える影響についても分析を行した。
○今回の研究で明らかになったこと

研究の結果、ある省または産業への海外からの直接投資は、当該の省・産業における起業を当初は促進するが、ある一定の水準を超えると起業を抑制するという、逆U字型の関係性が確認された。


海外からの直接投資は起業に対して「学習の機会」と「競争の脅威」の両者をもたらすが、競争の脅威が低い段階では学習の効果が優位である一方、外国企業の増加に従い学習の効果が弱まり、競争の脅威が上回るようになるのだという。

また、隣接する省および関連産業への海外からの直接投資は、起業を促進することも発見された。これは、海外からの直接投資の波及効果が地理的・産業的な壁を越えて機能することを示すとのことだ。

加えて、市場経済化が進んでいる省、すなわち非国有経済の発展度が高い省ほど、海外からの直接投資と起業の関係性が強まることも、明らかになっている。これは、市場経済化が進んでいる地域ほど、外国企業から現地の起業家への知識の移転や両者の取引を促進する仕組みが整っているためであると考えられる。
○今後の展望

本研究のサンプルは中国における海外からの直接投資と起業を対象としているため、結果は中国の制度や文化的背景に依存している可能性がある。そのため、今後は発見の一般化可能性を高めるために、異なる国を対象として同様の研究を行う必要がある。
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