数千万円、あるいは億単位のフェラーリを所有する人物が、たった数千円の駐車場代を出し渋る。この話を聞いて、あなたはどう感じるだろうか。


一般的な感覚でいえば、「そこまでお金があるなら、気持ちよく払えばいいのに」「たった数千円くらいなのになぜケチるのか」と思ってしまうだろう。

あるいは、「金持ちほどケチだ」という、半ば定番の結論に落ち着きたくなるかもしれない。

だが、その瞬間に「ケチ」というラベルで思考を止めてしまったら、彼らの本質にはなかなか辿り着けない。駐車場代をケチるのは、単に現金を減らしたくないからではない。
そこには、多くの人の目には映りにくい“かなりシビアで合理的な線引き”がある。彼らは「安い・高い」ではなく、「払うに値するかどうかという価値基準」で世界を見ているのだとか。

では、その“価値の境界線”はどこに引かれているのか。何にだけは気前よく支払い、何にだけは1円たりとも出さないのか。

総資産10億円の投資家であり、自身もフェラーリオーナーである武藤孝幸氏に、不可解に見えるお金持ちの金銭哲学の深層を伺った。
なぜウォーレン・バフェットは、ジャンクフードを食べるのか

投資家は「ケチである」と思われがちだが、それはあながち間違っていない。何かにお金を使う際に、「そのお金を使うのであれば、投資に回したほうがよくないか」と思うのが投資家のマインドセットかもしれない。

しかしその本質は「価値があるものにはお金を使うが、価値がないものにはお金を使いたくない」というものである。


自分にとって無価値だと感じたものには、1円たりとも払いたくない。それが彼らの生理なのだ。

「私の哲学はシンプルです。『価値があると思ったものには惜しみなくお金を使うが、価値がないものには1円も使わない』──これに尽きます。人それぞれ価値観が異なりますので、価値があるかないかはその人自身の考えにより異なりますが、自分軸を持つことが大切です。世界的にも有名でもある、 投資の神様ウォーレン・バフェットについてこんなエピソードを聞いたことがありますか? 彼は世界でも指折りの資産家ですが、ランチにはハンバーガーとコーラを選ぶと言います。お金があるのだからもっと健康に気を遣った食事にすればよいのにと思うかもしれませんが、結局は『他人がどう思うか』ではなく、『自分にとって価値があるかどうか』という基準が、誰よりも明確だからなんです」(武藤氏)

このロジックは、今回のテーマにもそのまま当てはまる。フェラーリという『体験』や『資産価値』には数千万円を払うが、単に車を置くだけのスペースに割高に感じる料金を払うことに、どうしても価値を見出せない。だから徹底的に削るのだ。

「ケチというよりも、むしろ投資家としての規律に近いかもしれません。自分でお金を使ってみて『あり』か『なし』かを判断する。その繰り返しで養われた選球眼があるからこそ、無駄な出費には敏感になるのです。
私がまだ高級車を持っていないときのことですが、高級車を持っている方が『ガソリン代が高くなった』『駐車場代が高い』などと言っていた際、お金持ちなんだからそんなの気にしなくていいのに…そもそもそれが嫌なら、高級車になんて乗らなければいいのに…と思っていました(笑)」(武藤氏)
駐車場代が惜しいのではなく、“損した感”が嫌なだけ

彼らにとって、お金を使う行為は一種の「投票」に近い。価値あるサービスには票(金)を投じるが、納得できないコストには票を入れない。

興味深いのは、彼らが単に「払わない」だけでなく、システムやルールを熟知した上で「払わなくて済む方法」を模索している点だ。 武藤氏は、自身の周りにいるフェラーリオーナーたちの生態についてこう語る。

「これは私自身の話というより、フェラーリのイベントなどで出会うオーナー仲間たちを見ていて感じることなのですが、彼らは本当に徹底していますよ。六本木ヒルズや麻布台ヒルズに行くとき、あえて特定のクレジットカードの特典をフル活用したりします。例えば、『一定額以上の利用で駐車場が2~3時間無料』といったサービスを知っていたり、『年間で何百万以上カード決済すると駐車場代が5時間無料になる』とかですね。高級車が停められる駐車場は限られています。特に都内は場所も限られており、駐車場代も高いです。その中でできるのであれば、安く停めたい、無料特典があるなら使い倒したいと思っている人も一定数以上います」(武藤氏)

彼らが嫌うのは、金額の大きさではない。「本来なら払わなくていいコストを払わされた」という事実そのものが許せないのだ。

武藤氏は、「情報を集めてカードの特典を組み合わせ、賢くゼロにする。
彼らはそのプロセス自体を、一種のゲームとして楽しんでいる節すらあります」と語る。

次ページ→お金持ちがハイブランドを選ぶ、納得の理由


ロゴよりストーリー。お金持ちがハイブランドで学ぶもの

そんな武藤氏自身は、「僕はそこまで駐車場代にはこだわりませんけどね。ただそのような情報をもとに、話も盛り上がるので調べることはしています」と笑う。

だが、フェラーリのオーナー仲間の徹底した姿勢から学ぶべき本質は、その「情報感度の高さ」にある。彼らが削るのは、機能だけの“無機質なコスト”だ。逆に言えば、人と情報が返ってくる出費には驚くほど気前がよい。

彼らが高級品(ブランド品)を選ぶ理由は、単なる見栄や所有欲ではない。その背景にあるストーリーや希少性を理解し、コミュニティ内での「会話」を楽しむためだという。

「フェラーリ以外にも、リシャールやエルメスを買うのは、一種の『コミュニケーションツール』を手に入れる感覚に近いんです。具体例を挙げると、エルメスのバーキンには『無秩序(アン・デゾルドル)』という、デザインが非対称になっているモデルがあります。こうしたマニアックな知識があるだけで、お金持ちの方々との会話の深度が一気に変わります。
『あのモデルをご存知なんですか?』と話が弾めば、そこからまた新しいご縁や、表には出ない話につながっていくわけです」(武藤氏)

それは単なる浪費ではなく、一部の富裕層の方々との人間関係を円滑にするための「教養」であり、「引き出し」に近いものなのだろう。

「ハイブランドは、ある種の『共通言語』を学ぶための教科書のようなものです。駐車場代のような無機質なコストは削りますが、こうした人とのつながりや知見をもたらしてくれる出費には、数百万、数千万単位でお金を投じます。もちろん富裕層の方々が全員そうだというわけではありませんが、そのような方々も一定数いるということです。富裕層の中にも、ハイブランドが好きな人もいれば嫌いな人もいる。私はハイブランドというものを通じて、その世界観やコミュニティに価値を感じたからこそ、お金を使うようになりました」(武藤氏)
お金持ちの財布が開く“たった一つの基準”

また、SNSで現金の札束や派手なロゴ入りアイテムを見せびらかす“見せ方”を重視する層とは対照的に、長く成功している富裕層ほど、ロゴが目立たない上質なものを好み、クローズドな場所で静かに情報を交換するのだとか。

彼らが求めているのは一瞬だけ満たされる承認欲求ではなく、長く成功し続けること、そして知的好奇心を満たす喜びだ。

最後に、武藤氏は彼らの根底にある考え方をこう締めくくった。

「結局、突き抜けた人たちの行動原理は『自分軸』があるかどうかです。他人がどう思うかではなく、自分が価値を感じるかどうかだと思います。その基準が明確だから、傍から見れば『フェラーリに乗ってるのに駐車場代をケチる変な人』に見えるかもしれません。私の場合は自分を成長させてくれる環境にはどんどん投資をすると決めています。
それがたまたまフェラーリだっただけです。フェラーリのコミュニティに入ったからこそ、視座が高くなり、より成長しようと思えたのは事実です。正直高級車自体に興味があったかと言われたら、ありませんでした。しかしそのコミュニティに価値があると感じたからこそ、高級車が好きになったのだと思います。富裕層のお金の使い方は一つではありません。あくまで一つの価値観、一つの選択肢だと思っていただければと思います」(武藤氏)

「駐車場代をケチる」という些細な行動──その裏側には、価値なきものには一銭も払わず、価値あるものには大金を張るという、富裕層ならではの透徹したイズムが隠されていた。

彼らの財布の紐は、ただ固いのではない。自分自身の人生をコントロールするために、その紐を握る握力が、多くの人より遥かに強いだけなのだ。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。
専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
編集部おすすめ