確定申告シーズン到来。多くの人が抱えるのは「面倒くさい」という感情以上に、「これで合っているのか?」という見えない不安ではないだろうか。
ChatGPTに仕訳を聞いたり、OCRでレシートを読み込んだりしても、この「正解のない不安」までは解消されない。計上漏れ、法改正の見落とし、グレーゾーンの判断ミス…。AIに頼れば頼るほど、ブラックボックス化するリスクもある。
そんな中、「AIを使って心理的な負担を限りなくゼロにした」と語るのが、会員数3万人超の国内最大級AI活用オンライン学習コミュニティ「SHIFT AI」で、コミュニティ事業本部GMを務める西田健太郎氏だ。
彼が提唱するのは、点でのAI利用ではなく、自動化・検証・監視を組み合わせた「5層のシステム設計」。
今回は西田氏に、自分の記憶や感覚に頼らず、AIで「失敗しない申告」を仕組み化する方法について話を伺った。
○確定申告は「作業」ではなく"運用"になった
「AIを使えば確定申告は楽になる」。西田氏はこれを「半分正解で、半分間違い」と語る。一般的にAI活用は「いかに早く終わらせるか」という時短や効率化で語られることが多い。
だが、入力がどれだけ速くなっても、内容にミスがあったり税務リスクを孕んでいれば本末転倒である。
「『計上漏れはないか』『法改正に対応できているか』といった不安は、AIに単発で質問しても解消しません。AIで調べ物はできても、事故は防げない。
具体的に西田氏は、経理業務を以下の5層で再定義し、システムとして運用している。
自動化(Automation): 作業の無人化
レシート入力などの単純作業を無人化し、スピードを担保する層。
検証(Verification): 違和感の検知
ロボットだけでは起きる事故(入力ミスや違和感)を、人間の目で検知する層。
資産化(Asset): 専門家知見のBot化
専門家との対話をBot化し、いつでも正解を引き出せるようにする層。
真偽判定(Truth): 調査事例に基づく判断
ネット上の節税情報が安全か危険か、過去の調査事例に基づいて判定する層。
監視(Monitoring): 法改正トリガーの検知
どの法律が変わればリスクになるかを特定し、改正の予兆を常時監視する層。
「確定申告を、年に一度のやらなければいけないこととして捉えるから辛くなるのです。一年を通して自動で回る『システム』として設計してしまう。そうした自分の記憶やがんばりに頼らない仕組みさえ作れば、心理的な負担は限りなくゼロにできます」
○「AIに作らせて終わり」が、もっとも危ない理由
テクノロジー活用というと、PythonやGAS(Google Apps Script)で複雑なシステムを組む姿を想像するかもしれない。だが、西田氏の視点はより本質的だ。
「レシート管理などはツールで自動化していますが、もっとも重要なのは『自動で作ること』ではありません。『出力された結果をどう検証するか』という設計です。
また、西田氏は自身が顧問を務めていた物販事業の帳簿作成の案件においても、いきなり完全自動化は目指さないという。
「最初からGASなどでガチガチに固めたりはしません。まずはスプレッドシートとAI、手作業を混ぜて試作する。そこで『ここはミスが出やすい』『チェック必須』という急所を見極めてから、実運用に乗せるのです。ツールは何でもいい。目的は『正確な帳票を出すこと』です。検証の網を張らずに自動化だけ進めると、後で必ず痛い目を見ますから」
○税理士の"脳"をBotに移植し、属人化をなくす
また、確定申告を税理士に一任している人もいるだろう。だが、その貴重なアドバイスが、メールやチャットの山に埋もれてはいないか。
「あの時、先生はなんと仰っていたか」と過去ログを漁る時間は、生産性ゼロだ。西田氏は、この「専門家との対話」さえもシステムの一部として資産化している。
「月1回のミーティングはすべて記録し、質問と回答を登録することで、問い合わせ対応を自動化するチャットボットソリューションの『ナレッジBot』に学習させています。例えば、自身の確定申告を夫婦で共有するといったことが発生した場合に、自分だけが判断できるという状態にはならず、時間を資産化していくことができるわけです」
さらに、領域ごとにBotを分けることで精度を高めている。
「例えば不動産管理は複雑で、通常の経理とは知識体系が異なります。だからこそ『不動産専用Bot』を別途作りました。複雑な領域ほど、専用の知見を即座に引き出せるようにしておく。この仕組み化の快感を知ると、もう人間の記憶には頼れませんよ(笑)」
○「裏ワザ的な節税術」などの嘘は、AIで暴いて捨てよ
一方で、SNSや動画サイトには「裏ワザ的な節税術」などが散見される。だが、それらは本当に安全なのか。西田氏は、情報の真偽を確かめるためにもAIとデータを活用している。
「巷の情報には嘘や通説が混じっています。これを鵜呑みにするのは、あまりに危険...。私は、過去の税務調査での否認事例をAIに集約させています。『流行っているから大丈夫』ではなく、『過去にこういう理由で否認された事例があるから危険』と、ファクトベースで判断する体制です」
さらに構想は、「未来の法改正」の監視へと進む。
「今、特に力を入れているのが、法律の変化を監視する仕組みです。ある節税スキームがあったとして、それが依拠している法律は何か。そして、『どの法律が変われば、その手法が使えなくなるのか』という急所を特定しておくのです。
その上で、関連する法改正の動きを検知して通知するBotを開発しています。これができれば、例えば『来年度の改正でこの手法はリスクが高まる』といった予測が可能になり、顧客や自分自身に対して、圧倒的に質の高い意思決定を提供できるようになります」
AIで「正解」は手に入る。だが、「副業をバレたくない」「グレーゾーンは避けたい」といった個別の事情やリスク許容度の判断は、人間にしかできない。AIはあくまで優秀な監視役であり、決定権者はあくまで人間なのだ。
最後に、西田氏はこう締めくくる。
「AI時代の税務リテラシーは、"正解を調べる力"ではなく、"失敗しない設計"です。AIが教えてくれない『自分たちが本当に守りたいもの』を守るためにこそ、テクノロジーを使うべきなのです」
ツールに振り回されるのではなく、自らの意思決定を守るために設計する。それが、これからのAI活用における最適解と言えるのかもしれない。
西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。
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