「歴代最強」と呼ばれたチームは、なぜ勝てなかったのか。2014年ブラジルW杯、日本代表は大きな期待を背負いながらもグループリーグで敗退した。
その敗因は、戦術や選手だけでは説明しきれない。

見落とされていたのは、気候や移動、滞在環境といった“見えない条件”だった。サッカーは今や、ピッチの上だけで決まる競技ではない。

本稿では『サッカーと地政学 - ゴールの先に世界が見える -』(木崎伸也/ワニブックス)から、ザックジャパンを狂わせた「地政学の罠」を読み解く。
○ブラジルW杯における"環境戦略"の明暗

元日本代表監督のジーコは、日本サッカー協会がイトゥを拠点に選んだことを聞いたときにこう嘆いたという。

「沖縄で試合があるのに、軽井沢でキャンプを張るようなものだ! なぜ一言、相談してくれなかったのか」

日本サッカー協会としては、現監督のザッケローニに気を遣い、キャンプ地について前監督であるジーコに相談するのは憚られたのかもしれない。だが、言うまでもなくジーコはブラジルのエキスパートである。

日本とブラジルの100年に渡る縁をフル活用できなかったという意味でも、痛恨のミスだった。

対照的に、ブラジルW杯において、キャンプ地選びに関して前代未聞の取り組みをして成功したのがドイツだ。

ドイツサッカー協会は「ブラジルの暑さに慣れるべき」と考え、キャンプ地を気温が高い都市に絞った。さらに選手たちが長く滞在したいと感じられる設備が大事だと考えた。当初ホテル探しは難航したが、「ドイツ人起業家がサンパウロ州サント・アンドレにリゾートホテルを建設しようとしている」という情報を入手する。
すぐに協力を依頼し、プライベートビーチを兼ね揃えたオーダーメイドのキャンプ地を完成させた。

プールサイドに試合を見られる大画面を設置するなど、選手たちが自然に交流する設計がなされ、試合を重ねるごとにチームは団結していった。ドイツは決勝で延長戦の末アルゼンチンに勝利し、4度目のW杯優勝を果たした。

ヨーロッパの国が南米大陸開催のW杯で優勝するのはこれが初めて。キャンプ地を建設するほどのこだわりがジンクスを覆したのである。

ただし、日本も失敗を無駄にする国ではない。

2018年ロシアW杯の際はキャンプの立地と設備にこだわってカザンを選び、さらに試合の2日前に現地へ移動するルーティンを採用した。ロシアは都市ごとに気候が大きく異なるわけではないが、それでも細心の注意を払ったのだ。

選手たちは万全の状態で試合を迎え、日本にとって3度目となるベスト16進出を果たした。

W杯で優勝を狙う国は、決勝翌日までキャンプ地のホテルを予約する。キャンプ地選びに本気度が現れると言っても過言ではない。

○『サッカーと地政学 - ゴールの先に世界が見える -』(木崎伸也/ワニブックス)

ボールが動けば世界が動く――。
今やサッカーは、ピッチの上だけで語れるスポーツではなくなった。日本代表の快進撃、W杯招致の舞台裏、スター選手の移籍、FIFAの腐敗と癒着、オイルマネーによるイメージ・ロンダリング──そのすべての背景には、国家の思惑や経済、移民、人材育成といった“見えない力”が働いている。本書は、サッカーを動かす巨大な潮流を「地政学」という切り口で読み解く試みだ。「なぜ日本が急激に強くなったのか」「なぜ特定の国でスターが生まれるのか」「なぜW杯は政治を揺らすのか」ボールが動くたび、ゴールが揺れるたび、同時に世界も動いている。その仕組みがわかると、試合はもっと面白く、ニュースはより立体的に見えてくる。サッカーファンにも、世界を知りたい人にも贈る一冊。
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