セイコーウオッチのデザイナーが「既存の概念にとらわれないデザインの在り方と可能性」を腕時計を通じて提案する「power dsign project」。その4回目となる「こだわりすぎた腕時計展」が3月29日まで開催中だ。
その展示作品と見どころを紹介しよう。

会期:2026年3月29日まで開催中。時間は11時~20時(会期中は無休、入場は19時45分まで)
入場料:無料
会場:東京都港区青山 LIGHT BOX STUDIO

腕時計の“一要素”に、こだわりすぎた腕時計大会、開催!

セイコーウオッチは、置き時計、腕時計の製造で140年の歴史を刻む。時計の製造には、切削、研磨、といった外装からムーブメント、そしてインデックス、カレンダー、針など、多岐にわたる高度な技術と表現が詰まっている。

今回の展示では、こうした各要素の中から、ひとつにこだわった(というか、思いっきり偏重した)腕時計をセイコーウオッチのデザイナーたちが製作。興味深くも個性(アク)の強い、各自の趣味に走り過ぎたモデルが一堂に会した。

切って削って形を出した「切削痕」

デザイナーは助田直哉氏。

助田氏「金属を切削して形を出し、その跡を研磨せず、そのまま残したモデルです。磨かずに残すと、光を当てたときにギラギラする。ここをあえて残して、見せ場としています」

助田氏「製作には9種類のエンドミル(編注:フライス盤やマシニングセンタで使用される回転切削工具)を使って削り出しています。そうして削っていった軌跡の流れを、そのまま模様としました」

助田氏「りゅうずもケースバックも同じように作っています。尾錠も遊環も。
上から垂直に削っていくので、こんな段差になるのですが、これをあえて大きく取って、削っていることを特徴的に見せるデザインになっています」

美しく滑らかな「球面」

デザイナーは石原悠氏。

石原氏「単純に言うと、9センチの玉を切り取った形状ですべて構成した、シンプルな形の時計です。ガラス、ベゼル、ケース、りゅうずガードをすべて同じ曲面で構成、表面をツライチにしました。それは裏にもつながっていて、横から見ると、完全にシンメトリーです」

石原氏「普通の時計にあるラグなどの出っ張りがないので、よりアイコニックであまり見たことないバランスになりました。ムーブメントには、小さな機械式を搭載しました」

石原氏「こちらは放射状に入ってる筋目が中心にいて、で、表面がいて、最後にこの円周上に筋目が入ってるという、仕上げを分けたモデル。もうひとつ、すべて鏡面で仕上げたモデルも作りました」

石原氏「このような短い曲げ針は近年あまり見かけなくなりましたがが、それをあえてやることによって、コンパクトなサイズのギリギリを攻めるなど、とにかく球面にこだわりました」


ダイヤルに使われる立体模様「型打ち」

デザイナーは松本卓也氏。

松本氏「“型打ち”と呼ばれる、ダイヤルの表面に細かい凹凸模様を加工する技術。それにこだわった作品です。

ダイヤルの素材は真鍮で、これに模様型をプレスで強く押し付けて、模様を転写しています。

今回、肉眼ではとらえきれない型打ちの限界に挑戦しています。どうせなら模様のテーマも凝ったものを考えたいなと思いまして、時間の流れをテーマにした模様を採用しました。四季の移ろいに植物をあしらって、ダイヤル全体で時間の流れを感じていただける作品に仕上げました」

松本氏「ダイヤルが大きく4つのブロックに分かれていて、右上から春、夏、秋、冬。
春は、小川のきらめきと水の揺らぎを表現した波模様、夏は太陽の強い日差し、降り注ぐ日光を放射状のパターンで表現しています」

松本氏「秋は夜空に輝く星をイメージして、冬は雪の結晶で模様を作っています。また、12カ所のインデックスは、時の流れの中で成長していく花をイメージしていて、花びらが数字になっているのもデザインの特徴です。数字は約百年前のセイコーの腕時計に使われていた書体を新しくアレンジして、再構成しました」

松本氏「会場ではルーペをご用意しているので、大きく見ていただきたいのですが、凹凸の高低差は0.07ミリしかありません。非常に細かい立体的な造形によって、光の当たり方で陰影や反射が変化して、ダイヤル全体の表情が変化します。

この細かなダイヤルをぜひ拡大して見ていただきたいという思いも込めて、時針はルーペの形。時計のケースはセイコーで初めて腕時計として発売されたローレルのデザインをベースにして、クラシックな時計の雰囲気を演出しました」
伝統のムーブメントに新しい操作感「手巻き」

デザイナーは伊東絢人氏。

伊東氏「手巻き操作に注目した腕時計です。機械式時計の主流は断然自動巻き時計でして、日々歩いたりとか、手を動かすとか、そういう中で勝手に回転錘が回って、ネジが巻かれていきます。

でも、その機能が付いてない手巻き時計は、自分の手で巻かないと動いてもくれない。だからこそ愛着が湧く。物を所有している喜び、楽しさみたいなのがあると思います。

一番の特徴は、回転ベゼルとりゅうずが噛み合っている構造です。
りゅうずを回して動くという仕組みは一般的な手巻き時計と変わりませんが、操作としては、回転ベゼルを回すと、りゅうずが連動して巻かれるという、ダイナミックな操作になるところです。なお、りゅうずを引くことで、時刻合わせも同様に、回転ベズルを回して、操作できます」

伊東氏「現在組み込んでいるムーブメントは最大41時間、つまり2日間放置していると止まってしまいます。そこで、巻くという行為をより愛着が湧く形で提供しようと思って作っています」

時計のダイヤルのほぼ半分がパワーリザーブインジケーター。この作品は手巻きにこだわりすぎた時計なので、いっそここまでやってみました。コンセプトを強調するためのデザインですね」

伊東氏「メインダイヤルの一部がパワーリザーブインジケーターというデザイン自体は、実はセイコー量産品にはあります。今もプレザージュなど一部のモデルでは使われているのですが、わざわざ針を偏心させてまでパワーリザーブの針を一番長くするという構造は初めて。

パワーリザーブ表示を大きく示すことは、“巻かなきゃ”という意識を高めるためでもあります。巻いてくれなきゃ止まっちゃうよ、という時計からのアピールです」


これはインデックス? ダイヤル? 「棒略字」

デザイナーは和田実穂氏。

和田氏「私は略字(インデックス)、特に棒略字(バーインデックス)が大好きで、これを存分に使った時計、ダイヤルを棒略字だけで構成した時計をデザインしました。

今回、略字の位置を固定するための正確な加工ができるということで、しかもそれが高級感のあるダイヤカットでもできると聞きました。例えば、棒略字の四面それぞれにダイヤカットを入れると、非常に滑らかで美しい表面が実現できます。稜線の幅がゼロに近い、鋭いエッジも出せます」

和田氏「棒略字はガラス風防の下に位置するので、磨き上げた表面やエッジに触れないし、傷も付きません。
その輝きを永遠に保つことができます。また、角度をそろえることによって反射光がそろうと言いますか、一気に光が増幅されるというか、そんなキラキラした光を見せることもポイントです」

和田氏「キラキラ光ったかと思うと、急に影になるみたいなところも魅力です。ただ、それを引き出そうとして、一般的な時計のインデックスが三種類で12本なのに対して、この時計では23種類で37本っていう数になってしまって(笑)。加工担当も“えっ!”ていう反応で、どうしようかなと思ったんですが、今回の目的を話して、なんとかここまで収めました。

本当はもうちょっとやりたかったんですけど、本数を抑えて、種類も共通化させたりしつつ、でも結局、この本数になってしまいました(笑)。

断面図でを見ていただくと分かるのですが、実は時針/分針の高さに差をつけて設計しています。時針が通る部分には低い略字を敷き、分針が通る部分にはもう少し高い略字、ダイヤル端で針が通過しない位置には最も高い略字を敷くという具合です。

立体感と略字のバリエーションも大事ですが、時計である以上、時刻が分からなければなりません。そこで12時、3時、6時、9時に関しては目立つ仕上げにして、1時、2時、4時、5時、7時、8時、10時、11時にはピラミッド型の略字を配置しました」

時刻から主役交代「曜日表示」

デザイナーは長谷川明弘氏。

長谷川氏「曜日表示に特化した時計です。日付表示は付いていません。その代わり、今日の曜日を大きく、明日の曜日を小さく表示。
これは今日と明日の距離感の表現です」

長谷川氏「“明日が何曜日か”を意識することってありますよね。例えば、“明日は土曜日だから、何とか今日一日を乗り切ろう”とか。そんな思いを呼び起こしたいと考えました。

曜日窓の前に“好日”と書いたのは、その日が何曜日でも、いい日であってほしいという願いです。これは、英語の“Beautiful”、“day”も同じです。

円盤がじわじわと回って、曜日表記が窓から顔を出す。スマートウオッチの人気が高まる現代でも、この古めかしくも感じる機構は、今も時計に搭載されています。それを私は、“心に作用するローテク”だと思うのです」

長谷川氏「ダイヤルにはトリックアートも仕込んでみました。曜日窓やインデックスに立体感を感じていただけると思うんですが、これらはすべて平面に陰影を描いたものです。この曜日窓も実は奥行きはまったくなくて、ダイヤルには厚みもなく、角を若干丸めた四角い穴が空いているだけなんですよ」


前脚でも「手針」

デザイナーは大森由紀氏。

大森氏「通常の手針は有名なキャラクターが立っていて、胸のあたりから出た時分針が回っていますよね。それは二次元な感じですが、この時計では猫を上から見て、全部立体にしたいと思ったんです。
すべての部品を立体にするには、上から見た図であれば網羅できると思って」

大森氏「この尻尾(しっぽ)が時針、足が分針です。手は秒針になっていて、常に動いている。なので、この子はもう命が宿ってますよっていう意味なんです」

大森氏「顔のパーツはステンレス製。両面塗装印刷をして、ガラス風防の裏から接着剤で貼って浮かして留めています。そうすると、この四つの体が重なったとき、キャラクターができあがるんです。ケースバックも、テンプが見える窓を足跡型に抜きました」

大森氏「この猫はセイコーのオリジナルキャラなんですが、実はストーリー的なものがあって、初めは普通の猫だったんですよ。でも、旅の途中でセイコー村に入ると二足歩行になった。魔法がかかった妖精になるんです」

大森氏「ヒゲが片方だけ巻いているのは、機械式ムーブメントのヒゲぜんまいがモチーフです。この子のヒゲを切って時計のゼンマイを修理したことがあって、そのヒゲがまた生えてきた、というストーリーらしいです」

実際に発売された「こだわりすぎ」の時計も展示

会場の2階には、普段なかなかお目にかかれないセイコーの貴重なアーカイブ、それも、本イベントの趣旨に合わせたこだわりのデザインを持つ時計たちが展示されている。これらも見どころだ。

セイコーウオッチの「こだわりすぎた腕時計展」は、2026年3月29日まで入場無料で開催中。SNSへの投稿やアンケートに回答した来場者には、power design projectステッカーやカードルーペがプレゼントされる。この春休みに、ぜひ出かけてみてはいかがだろうか。
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