静岡で過ごした学生時代のことです。

静岡県の温泉地として知られる修善寺の川べりに石を積み上げただけの温泉「独鈷の湯」がありました。

無料ということもあり、誰でも入ることができるらしい。

夜中に麻雀をしながら、その話になり、

「今から行く?」と盛り上がり、

アルバイトで購入したボロボロの中古車に乗り込み、

ドライブがてら約2時間かけて向かいました。

明け方に到着した「独鈷の湯」に驚きます。

川べりにあるのですが、特についたてがあるわけでもありません。

川沿いの旅館はじめ様々な場所から見えてしまいます。

そんな中、地域に住む高齢者たちは人目を気にすることなく入っていました。

「はじめてか?脱衣所なんてねぇぞ。その辺で脱げばいい」

強面のおじさまが無表情で教えてくれました。

もちろん洗い場もありません。

友人が入ろうとした時、

「かけ湯くらいしろ!桶があるだろ!!」

おじさまの叱り声が飛びます。

我々は、少し離れた場所にある古びた桶を手に取り、

かけ湯をして、おそるおそる入りました。

子どもの頃、親から「かけ湯」を教わる方もいますが、

他人から温泉や銭湯に入るマナーを教わることもあったんですよね。

昔は。

今でも、旅先の温泉地や銭湯などで、かけ湯をしないで入る旅人を見かけると当時のことを思い出します。

「かけ湯くらいしろ!」

と頭に浮かべながら。

気の弱い私は口には出せません。

ちなみに現在、独鈷の湯は移動し、一時期は足湯のみ入浴可能でしたが、現在は立ち入りできないようです。<text:イシコ>

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