産後すぐの頃、佐伯ゆか(32)は初めての育児に必死でした。
慣れない授乳、止まらない夜泣き、思うようにいかない家事。


ホルモンの乱れも重なり、毎日をなんとか乗り切っている状態。
それでも、夫の俊介(34)は「大変だよな」「手伝うよ」と言ってくれる優しい人でした。
なのに、赤ちゃんが泣くたびに“ゆかの方だけを見る”その視線が、ある日急に重く感じられたのです。
これは、産後に積もった“見えない負担”にゆかが気づくまでの物語です。

産後の現実と、夫の無自覚な「助ける側」スタンス

出産直後、ゆかの生活は一瞬で赤ちゃん中心になりました。
眠くても、疲れていても、赤ちゃんが泣けば体が勝手に動く。
授乳して、寝かしつけて、おむつを替えて、また泣いて…。
時間の感覚すら分からなくなるほど、育児は終わりがありませんでした。

一方の俊介は、仕事が忙しく帰宅はいつも遅め。それでも

「大変だよな、俺もできることあれば言って」
と声をかけてくれる“優しい夫”でした。

だけど、ゆかの胸には少しずつモヤが積もっていきました。

(“できることがあれば”じゃなくて、今何が必要かを気づいてほしい…)
(言えばやってくれる。でも、言わないと何も変わらない。

ゆかは疲れ切った体で、そんな本音を抱えたまま、毎日をやり過ごしていました。

赤ちゃんが泣くたびに“私を見る”夫。その視線が限界のサインに

ある夜のこと。
赤ちゃんが突然大きな声で泣き出しました。
俊介は驚いて振り返り、そのまま“ゆかの方を見る”。

(ほら、やっぱり私を見る…)
(なんで泣いたらまず私なの?)

そう思った瞬間、胸の奥に重い塊が落ちてくるようでした。

俊介は

「ゆか、大丈夫?どうすればいい?」
と優しく声をかけてくれる。

でも、その“どうすればいい?”ですら苦しくなってしまう。

(どうすればいいかなんて私も分からないよ…
ただ、一緒に考えてほしいだけなのに。)

抱っこしながら涙がにじみ、ゆかはその場にしゃがみ込みました。

俊介は焦った顔で

「ちょっと休んでて。俺がやるから」
と言ってくれたけれど、ゆかの心はもう限界に近づいていました。

(“やるから”じゃなくて…
どうして普段から気づこうとしてくれないんだろう。)

本当にほしかったのは、「手伝い」じゃなくて“理解”だった

翌朝、少し落ち着いたゆかは、意を決して俊介に気持ちを伝えました。

「赤ちゃんが泣くたびに私を見るの、すごくつらかった。
私だけが“育児の担当”みたいで…。一緒にやってる感じがしなかったんだ。」

俊介は驚いたように目を丸くし、

「そんなつもり全然なかった…本当にごめん。」
と呟きました。

“つもりがなかった”
その言葉こそ、ゆかを苦しめていた根っこでした。

それから俊介は、すぐに完璧とはいかないものの、
赤ちゃんが泣いたときに自分から抱き上げたり、
家事を言われる前にやってみたり、
ゆかの表情を少し気にかけるようになったり。

その小さな変化が、ゆかにとっては大きな救いでした。

(やっと、“一緒に育ててる”って感じる。)

産後の孤独は、手伝いの量よりも“理解しようとする姿勢”で大きく変わる。
ゆかはそう気づいたのです。

産後の生活は、誰かと比べようのないほど過酷で孤独。


でも、ひとつの言葉や行動で心が軽くなることもあります。

完璧じゃなくていい。
ただ隣にいる人が“気づこうとしてくれるだけ”で、
世界の見え方は少しだけ優しくなる。

ゆかにとってその変化は、産後の闇に差し込む小さな光でした。

※この記事は実際の体験談をもとに再構成したフィクションです。登場人物は仮名であり、特定の個人を示すものではありません ※本コンテンツの画像は生成AIで作成しています

編集部おすすめ