新宿副都心にある【ヒルトン東京】では、アジアのベストレストラン50に選出されたシンガポールのミシュラン星付きレストラン「BORN」のオーナーシェフ・ゾー・タン(Zor Tan)氏を迎え、2025年12月4日と5日の2日間限定でガストロノミーポップアップを開催しました。フランス料理の優雅さと繊細な技巧に、中国料理の造詣を融合させた美食の模様をレポートします。
|アジアを代表するレストランの味
マレーシア出身のゾー・タン氏は、2022年シンガポールの歴史的建造物「ジンリキシャ・ステーション」にオーナーシェフとしてレストラン「BORN」をオープン。1年を経ずしてミシュラン1つ星を獲得し、2024年の「アジアのベストレストラン50(Asia’s 50 Best Restaurants)」にも選出。今最も注目されるアジアを代表する革新の料理人です。
▲ゾー・タン氏(右から4人目)とヒルトン東京のシェフチーム
ガストロノミーポップアップが開催されたのは、「ヒルトン東京」2階のレストラン「メトロポリタングリル」。シェフ・ゾー・タン氏とヒルトン東京のシェフチームが共に料理を作り、ホテルのソムリエが最適の日本酒やワイン、紹興酒をペアリングしました。
▲食材が記されているだけのメニューに期待と想像がふくらみます
ゾー・タン氏のコース料理は提供される瞬間まで詳細が明かされないユニークなスタイル。メニューには使われる素材が書かれているだけなので、どんな料理が登場するのか最初から最後までミステリアスで、ワクワクする体験です。特に今回のテーマは「Let Your Imagination Savor(想像で味わう、感性の一皿)」。味覚と感性でゾー・タン氏がつむぐ “物語” を体験するコース料理です。
|意外性と驚き、そして感動のコース料理
料理とのペアリングは、スパークリング日本酒、ロゼワイン、紹興酒、白ワイン、赤ワイン、ポートワインを提供。乾杯酒は島根県松江の「王祿 出雲麹屋 にごり」。ガス感がシュワっとはじけ、柔らかな甘味と米のふくらみを感じるにごりの強い一杯です。
▲ホテルのソムリエが選ぶペアリングも魅力的
アミューズの「林檎 / 日本酒 / 山椒」は、想像を超える一品です。
▲最初の一品は驚きの「林檎 / 日本酒 / 山椒」
二品目はタルトレットをイメージした「牛タン / 卵黄 / ネギ」。しかもメニューにはない料理です。エッグヨーク(卵黄)で作ったタルタルで味付けされた牛タンは旨味とコクがあり、トッピングしたみずみずしい葱と山椒の辛みがアクセント。奥行きのある味わいが舌の上に広がりました。
▲「牛タン / 卵黄 / ネギ」
メニューを見ただけでは想像のつかない3品目「鯖 / 苺 / トマト」。鯖が3点並んだシンプルなお皿がテーブルに置かれると、ゾー・タン氏が自らテーブルをまわり、霜のついたアイスペールの中からフローズンの赤イチゴと白イチゴを添えていきます。
▲ゾー・タン氏がテーブルで仕上げる「鯖 / 苺 / トマト」
塩と砂糖でコンポートされた鯖は特有の旨味と優しい酸味が感じられ、コンソメとトマトの透明なソースがさり気なく寄り添います。光り物の青魚に桃色を合わせる色彩の妙技は、日本とは異なる感覚。そのうえ冷たいイチゴと鯖とが想像以上のマリアージュで驚かされました。シャトー デスクランのロゼワイン「ザ ペール バイ サーシャ リシーヌ」はエレガントな辛口で、鯖の味が広がる口の中をリセットしてくれる組み合わせです。
▲意外性たっぷり「鯖 / 苺 / トマト」
パンとは言え、侮れないのもこのクラスのホテルです。小麦の風味が引き立つカンパーニュに添えられた、ホイップバターも驚きの品。桜のスモークをバターにまとわせたお店手作りの焦がしバターで、フワフワで軽やか、ほんのり香ばしい余韻が残ります。購入したいというお客さんがいるのも納得です。
▲「カンパーニュ」と手作りホイップバター
魚料理は「アンコウ / 玉木耳/ 発酵唐辛子」。青唐辛子の発酵調味料を詰めたアンコウの頭を蒸して、ソテーした玉木耳(白キクラゲ)が飾られ、再びゾー・タン氏がテーブルをまわってチキンストック(チキンブイヨン)を注ぎ入れて仕上げます。アンコウはふっくらと柔らかで、玉木耳はサクサクとソフトな食感。繊細な味付けの一皿です。
▲チキンストックが絶妙な「アンコウ / 玉木耳(たまきくらげ)/ 発酵唐辛子」
アンコウのシンプルな料理に合わせたのは、実に25年もの長期熟成を行ったプレミアム紹興酒「永昌源 古越龍山 陳醸25年 景徳鎮」。深く、まろやかで、しっかりとした味わいはシェリー酒を思わせる奥深さ。酒壷は中国を代表する陶磁器 “景徳鎮” の青白磁で、注がれる際に特別感を楽しめます。
▲プレミアム紹興酒「永昌源 古越龍山 陳醸25年 景徳鎮」
こちらもメニューにはない一品。
▲「コシヒカリ / タラバガニ / カニミソ」
子供の頃から『ドラえもん』が大好きだったというゾー・タン氏。しずかちゃんが座る座布団からインスピレーションを得て、牛肩ロースの希少部位 “ざぶとん” が使われます。刺しが入った牛肉は柔らかで、牛の出汁だけで作られたブラウンソースに加え、麻辣を泡状にした香りづけのソースを周囲に飾り、ゾー・タン氏自家製の塩分を抑えたキャビアが添えられる贅沢さ。軽めのソースで肉の旨味とキャビアの風味を同時に味わいます。
▲ドラえもんからインスパイア「ザブトン / ベビーポテト / キャビア」
繊細な味わいのソースと牛肉に合わせた赤ワインは、渋みの少ないスペインの「パソス・デ・サン・マルティン2019」。ガルナッチャ種のブドウ100パーセントで作られたフルーティーで飲みやすいワインは、確かな存在感と料理を邪魔しない、重要な脇役に徹していました。
▲アルタス「パソス・デ・サン・マルティン」の2019年
繊細に飾られたデザートも、ドラえもんのしずかちゃんが美味しそうに食べる焼きいもをヒントにした「サツマイモ / 烏龍 / 雪塩」。ウーロン茶のクリームや雪塩を使ったアイスクリームに、日本産のサツマイモのさまざまな食感が楽しめるように、ピューレやサブレなどが添えられます。
▲デザートの「サツマイモ / 烏龍 / 雪塩」
最後の一品はスモークされた「焦がしバター フィナンシェ」。蓋をした器で運ばれ目の前で開けると炭の香ばしい香りが立ち昇ります。デザートワインと共に頂くのも本格的。フォンセカ・ギマラエンスの「フォンセカ エイジド・トーニー・ポート10年」を合わせます。甘口の赤ワインはブランデーの香りも感じられる深い味。香ばしいフィナンシェとポートワインのマリアージュを満喫しました。
▲「焦がしバター フィナンシェ」
驚きと感動に満ちた幸福な2日間。意外性あふれる数々の料理は、ひとつひとつの素材の味を守りながら、独創的で変化に富んだ味付けを楽しむことができました。ホテルが選んだペアリングのお酒も料理に寄り添う絶妙かつ印象に残る選択です。もし、シンガポールへ行く機会があるのなら「BORN」の予約を忘れずに。そして4軒のレストランと2軒のバー&ラウンジを備え、料理ひと皿ひと皿に創意工夫を凝らす【ヒルトン東京】の存在は、いつも意識していてくださいね。
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