Courtesy of Mame Kurogouchi
透明感と光のテクスチャー
今回のコレクションは、シアーな素材を中心に展開。氷やガラスを思わせる透け感、輝き、軽やかさが縦横無尽に表現されました。樹氷の荘厳さを思わせる繊細な糸で仕立てられたテーラードのセットアップ、昭和の型板硝子に着想を得たシアージャカードドレス、そして光を纏う蔦柄のジャカードニット。いずれも和と洋をつなぐ独自の感性が反映され、氷や流水、光のゆらめきといった一瞬の風景を布の中に結晶させています。

ノスタルジーと革新の交差点
記憶の色彩を呼び覚ますのは、和ガラス特有の淡いブルーや乳白色に、長野の朝焼けを重ねたパステルトーン。京都の工房でオーロラ色に染め上げられた三層織りのジャケットとスカートには、Stratasys社の3Dプリント装飾が施され、記憶の微細な粒子を可視化するかのような効果を与えます。伝統の技法と最先端テクノロジーを併置することで、懐旧と革新の対話が実現されています。

アクセサリーに宿る儚さ
アクセサリーもまた、曖昧さと透明性をテーマにしています。連なる花々のピアス、立体刺繍のベルト、シアーブーツやフローラルモチーフのサンダルといったピースには、凍った花弁や氷柱の溶解が宿すフラジリティが映し出されています。まるで霞んだ記憶を纏うかのように、繊細なノスタルジーが形を持ち、現代に息づいています。

Mame Kurogouchiが提示するのは、過ぎ去った日常と触れ得ない記憶へのオマージュでありながら、それを現代のワードローブに溶け込ませる試みです。曖昧さと透明性を讃える美学は、今季のパリコレクションの中でもひときわ静謐に輝く存在となりました。



