Courtesy of sacai
“折り返す”という動きから生まれる新たな造形
今季のコレクションでは、クラシックな衣服の構造を“折り返す”という発想から新たなシルエットを導き出しています。カーゴパンツは折り上げることでボリュームのあるスカートへと変化し、タンクトップの裾を返すことでブラウスのようなドレープを描き、タキシードスーツはコクーン状のケープとして再構築されます。この「折り返し」の行為は、布の物理的な変化を超えて、日常の服に潜む可能性を開くような詩的な実験として展開されました。

クラシックの再解釈と、形のエクスペリメント
阿部千登勢は、クラシックを素材にして現代を更新する手法をさらに深化させています。ショルダーパッドは大胆に増幅され、タキシードジャケットのペプラムとして構造的な存在感を強め、解体されたラペルはシルクブラウスのような柔らかいテクスチャーと融合。ツイードのフリンジは広がり、カシミアのフーディーやトラックパンツはフリルドレスとして姿を変え、マスキュリンとフェミニンが調和する新たなガウンへと昇華しました。こうした服づくりの背景には、「既知の形から未知の美を見出す」というsacaiの哲学が一貫して流れています。

デニム、タッセル──日常素材の中に潜む実験精神
コレクションでは、デニムやツイードといった実用的な素材も再定義されています。デニムはハイブリッドなレイヤー構成によって多層的な表情を生み出し、シューズには特大のタッセルをあしらうことで、コレクション全体のモチーフを軽やかに引き継ぎます。sacaiが常に行ってきた「日常と非日常の往還」は、素材の選択にも通底しており、今季もまた、そこに確かなリアリティと遊び心が共存しています。

“At your best, you are love.”──想いを宿す服
会場には“home from home”という言葉が掲げられ、来場者は温かく迎え入れられるような空間の中でショーを体験しました。阿部氏はこのコレクションを通じて、“At your best, you are love.(最良のあなたであるとき、それは愛である)”というメッセージを発信しています。



