近年、日本にきた観光客が日本の包装の技と美しさに魅了され、その様子がソーシャルメディアを通じて海外に発信され注目を集めている。本記事では、日本独自の進化を遂げた包装の魅力と背景について、視覚、所作、こころという3つの美の視点から紹介する。

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1. 歴史 ― 布の「包」から紙の「包装」へ
日本の「包装」の美学は、古くから息づく「包む」文化に根ざしている。奈良時代から平安時代(8世紀頃~12世紀頃)には、布で物を包む習慣が存在し、その文化は現代の風呂敷にも受け継がれている。当時から「つつみ(包)」という語は“大切に覆う”という意味を持ち、単なる保護機能を超え、祈りや礼節の表現としても用いられていた。

明治時代(19世紀)には西洋の製紙技術が導入され、紙の普及とともに折り紙の儀礼的技法と結びついた包装文化が発達した。1890年代頃から百貨店が包装紙を使用し始め、日本で最も歴史のある百貨店の日本橋三越もこの時期に紙包装を取り入れた代表的な存在として記録されている。こうして、日本の礼節と美意識を内包した紙包装が定着していった。

2. 視覚の美 ― 素材・デザイン・形状
多様な紙素材とデザイン
日本の包装では、和紙や高品質な洋紙、色彩豊かなデザイン紙など、様々な紙が使われる。包装紙は単に包むための素材ではなく、見るだけで価値を感じさせる視覚的な美しさが重視される。そこには、色・柄・余白のバランス、質感の違いまで細やかな美意識が込められている。たとえば日本橋三越の「華ひらく」などの百貨店の名紙は、ただブランドを示す以上に、アートの役割を果たす場合が多い。

日本の包装の美学:視覚、所作、こころの美
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「華ひらく」は世界的画家の猪熊弦一郎によってデザインされ、1950年に誕生した。モチーフが生まれたきっかけは海岸の石。猪熊氏が千葉の犬吠埼を散策中に見た外房の波に洗われる石から着想を得て「波にも負けずに頑固で強く」「自然の作る造形の美しさ」をテーマに作成した一枚になっている。

立体への変換:極めて精緻な形状設計

日本の包装の美学:視覚、所作、こころの美
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日本の包装技術は、一枚の紙で四角い箱だけでなく円柱や不定形の対象にも無駄なく美しく対応することができる。平面から立体へ変換されたときの視覚的な完成度の高さが、日本の包装文化の驚きと魅力を生む要因の一つである。

先に紹介した「華ひらく」の原画は平面だが、物を包んで立体になったときの表情の変化も魅力。「どのような大きさでも、どの角度から見ても、図案の美しさが変わらない」という画期的なデザインは、それまでシンプルなクラフト紙(茶色)が主流だった百貨店の包装紙を一変させた。

3. 所作の美 ― 最初の一手から最後のロゴ配置まで設計する
包む対象と紙との最初の位置関係の設計は、仕上がりの均衡と美しさを左右する。 折り重なった角、紙同士の接点、これらを全てイメージし、包装が始まる。その後はお客さまを待たせないための素早い所作で瞬く間に包装が完成する。その手先の器用さと丁寧さも兼ね備えた所作には日本ならではの感性を感じとることができる。

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【動画 三越包装紙「華ひらく」】

嘉永2年(1849年)日本橋に創業した海苔専門店の山本海苔店では円柱の缶に一枚の四角の紙を匠の技で立体的に包装する姿を見ることができる。紙の動きが形を生み出すその技と速さに美意識が宿っている。

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【動画 山本海苔店】

ロゴやシンボルが最も見える位置に来るよう設計されていることや、シールやテープを安易には多用せず多くが最後に一枚で留める姿にも日本の包装ならではのこだわりが伺える。

4. こころの美:包むという心の表現
日本の包装の美学:視覚、所作、こころの美
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包装は「心を包む」行為
日本では、物を渡すという行為そのものが、相手の心・関係性・礼儀を包む行為でもあると捉えられる。贈り物をそのまま渡すのではなく、紙や布で丁寧に包むことが、“想いを形にする”ことだと意識しているのだ。ギフト包装は単なる“外装”ではなく、渡す人の敬意、礼節、季節感、受け取る人への気遣いが組み合わさった一種の非言語コミュニケーションになっているのだ。

「余白」と「礼節」の美
日本の包装に共通する哲学として、華美や派手にしすぎず、余白・静けさ・控えめな自己主張するということがある。情報を詰め込むのではなく、適度な空間を残すことで、受け取る側の想像性を尊重する。

この哲学、そして視覚、所作、こころに美意識を宿すことは、茶道や書道といった日本文化全般と共通しているかもしれない。

取材協力:
・日本橋三越本店 本館地下1階 パーソナルショッピングデスク
・日本橋三越本店 本館地下1階 山本海苔店
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