京都で育まれた西陣織には約20の工程があり、それぞれの工程がその専門家に分業されている。
細尾真孝は海外ブランドからのオーダーが絶えない今の状況にいたるまでをこう振り返る。「二つの転機がありました。一つは帯に特化した従来の32cm幅の織り機を応用し、150cm幅で織れる織機を自社で開発した時です」。これによって西陣織の使われるアイテムがインテリアや洋服にと格段に広がった。2010年から毎年1台ずつ幅広の織機を増やし、現在は5台の織機がリズミカルな音を響かせる。織り幅を変えるという大胆な挑戦により、西陣織がパリコレクションのランウエイや世界各国のラグジュアリーブランドのショップインテリアとして、新たな活躍の場を得ることとなった。
もう一つは「クリエーションをデザイナーやクリエーターに委ねる点」という。8年程前、海外展示会に初めて出展した際は、和柄のクッションを展示したという細尾氏。海外百貨店からもオーダーが入ったものの、クッションのバジェットは少額に留まる。なかなか事業化出来ず悩んでいた時、ルーブル装飾美術館に本業である帯を展示する機会を得た。
その雅な帯に惚れ込んだのは建築家ピーター・マリノ(Peter Marino)。2009年5月、彼から1通のメールが彼に届いたという。その後、次々にピーター・マリノがデザインを手掛ける世界各国のラグジュアリーブランドストアの壁面やインテリアを、細尾の西陣織が彩るようになる。「西陣織固有の技法で、和紙に金箔や銀箔を漆で貼る技法があります。その和紙を髪の毛よりも細く裁断したものを織り込んでいるのです。幾重ものストラクチャーの中に金糸や銀糸を織り込んでいくことで、ブランドの商品を引立てながらも、その存在感に負けない役割を西陣織が果たしているのでは」と細尾氏。
今後の展開を訪ねると、「1200年間、日本国内だけで勝負していきた西陣織だからこそ、こうしてグローバルに展開した時、新しい発見を与えることができるのではないか。同じように、西陣織以外の伝統工芸にも逆にチャンスが広がっているのではないでしょうか。そして、西陣からこの織機の奏でる音色を絶やさないようにしたいと思っています」と返ってきた。
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