鈎に軽いオモリ、エサだけを取りつけたシンプルな仕掛けを波止の岸壁沿いに落とし込み、沈下するエサに喰らいつくチヌを釣る。
数あるチヌ釣りの中で、日中にこれだけ簡単にチヌがヒットしてくる釣りはそう多くない。
落とし込みやへち釣りと呼ばれる波止のチヌ釣りは、今や冬場もオフなく、年間を通じて楽しめる都市近郊を代表する釣りだ。
年間を通じて釣れるが、最盛期はやはり初夏から盛夏だ。
波止際の潮間帯にイガイがびっしりと付着し、そこから剥がれ落ちるイガイやカニなどを浅いタナで待ち受けるチヌが活発になる。
今年も大阪・堺の沖波止に位置する新波止では、イガイが付き始めるのと同時に爆釣モードに入ってきた。
この時期は浅いタナでアタリも頻発するので、入門者にもピッタリ。
そこで今回、テレビ大阪系列で毎週土曜日朝6時50分から放送の釣り番組「フィッシングDAYS」で、第14代アングラーズアイドル・西村美穂ちゃんが、へち釣りに挑戦した。
先生はへち釣りの帝王・大田徹さんだ。
初挑戦の西村美穂ちゃんも、大田さんのサポートで見事に大型チヌを釣りあげたのだが、そこでの太田さんのレクチャーから、初心者にも優しいへち釣りのイロハを紹介していきたい。
チヌが絶好調な堺港沖の新波止
へち釣りに必要なタックルや仕掛けは?
落とし込みやへち釣りと呼ばれる釣りは、波止の壁面に付着する貝やカニなどが剥がれ落ちて沈下してくるのを待ち受けて捕食するチヌを狙った釣り。
詳しく言うと、アタリを取る際に目印の付いた仕掛け糸を用いて、目印の動きでアタリを判断するのが落とし込み。
目印は付けず、カラーリングされた視認性の良いラインを使って、ラインの動きの変化でアタリを取るのがへち釣りと言われる。
今回西村さんが挑戦したへち釣りは、目印などを使わない分、ものすごくシンプルな仕掛けでの釣り。
基本的にはエサが壁面から剥がれて自然に沈下するのを演出する。
そして、同じ場所に何度落とし込んでもチヌが居なければ食わない。
だから、どんどん歩いて新しいポイントにエサを落としていくのが基本中の基本だ。
そこで、へち釣りではベストやウエストバッグにオモリや鈎、ハリスなどの小物はすべて入れて持ち歩く。
また、タモもベルトに通して持って歩くため、仕舞い寸法の短いタモの柄が多用される。
順に紹介していくと、まずは肝心な竿。
ラインの変化でアタリを取るのだが、ラインと併せて竿の穂先でもアタリを取ったり、沈下速度を調整したりはもちろん、いざチヌを掛けた際にはチヌに先手を取られないよう、しっかりと引きを受け止めるバットパワーも必要だ。
繊細な穂先としっかりしたバットパワーを併せ持つのが、へち釣り用の竿に求められる機能だ。
また、手持ちで1日を通してエサを落とし込み続けるので、軽量であることも重要なファクターだ。
今回は持ち重り感を徹底的に排除し、バットパワーを維持しつつ大幅な軽量化に成功した、がまかつの「がまチヌ へちさぐり 銀参郎 ULTIMATE」のMH300を使用した。

がまチヌ へちさぐり 銀参郎 ULTIMATE MH300
リールは専用の下向き片軸リール。
ラインはPE1号に、ハリスはフロロカーボン2号を50cmほど。

下向きの片軸リールをセットした状態
鈎はチヌ用の3号か4号をメインに使う。
今回は貫通性能を徹底的に追求した「チヌR」、カエシを大きくしたメガバーブで、ラインが緩んでも鈎が外れにくい設計の「スパイクチヌ」で、ともに3、4号を使用。
オモリはガン玉で3B~5Bを使った。

メガバーブでバラシが激減した「スパイクチヌ」

がまかつ(Gamakatsu) バラ スパイクチヌ(ナノスムースコート) 68-881#2

貫通性能を徹底的に追求した「チヌR」

がまかつ(Gamakatsu) シングルフック チヌR 1号 22本 68293
エサは事前に採取しておいた小型のイガイを使うが、繊維でつながった数粒を繊維に鈎を絡めるように刺せばOK。
基本的な釣り方は壁際ギリギリにエサを落として、どんどん移動を繰り返す
チヌは波止の周りを大きく回遊するような魚ではなく、潮や人為的なプレッシャー、摂餌行動など小さな範囲内で動いている。
そのため、基本的には活性の高いチヌが居る場所を探してどんどんと移動しながら釣る。
ジッとしていては釣れないのがへち釣りである。
釣り方としては、とにかく波止際にエサを落とし込んで、波止から離さないようにキープするのがコツ。
エサのイガイを波止から5~10cm離した場所で水面につけたらそのまま落とすのだが「あまり道糸を水面に置きすぎると、波の影響を受けてサシエが安定しないので、できれば道糸は張らず緩めずで、落ちていくエサに付いていく感じですね」と大田さん。

波止際への落とし込みをレクチャーする大田さん
そして、時には道糸を張り気味にして、竿の穂先でブレーキをかけるようにスローに落とし込んでみるのも有効だ。
逆に波があるなど仕掛けが安定しないようなら、オモリを重くしてエサが波止際をキープしながら安定して沈下するように調整することも必要だ。
夏の時期は比較的浅いタナで釣れるので、通常はあまり深くまでは探らず、竿先を上げた状態で、水面にエサがある状態から沈めるくらい。
つまりは竿の長さ分沈めるにとどめて、とにかくスピーディに移動を繰り返すのがチヌに出会うコツだ。
竿いっぱいくらい沈めたら、その場所で止めてエサをステイさせてやる。
実はこの時にアタリが出ることもある。
アタリは自然に一定の速度で沈んでいる状態から、沈下が止まったり、速度を増したり、道糸が震える、ツンと突かれたような反応があるなどさまざま。
道糸を張っている状態だと穂先にアタリが出ることも少なくない。
違和感、反応があれば即アワセが基本。
アワセは強く大きく…が必須だ。
チヌの口周りは硬い部分が多く、たとえば鈎先が歯に乗ってしまうと、貫通力に長けた鈎でもなかなか貫通させることができない。
それを補うために、強いアワセが必要だ。

アタリがあれば即アワセが基本
ヒットしたチヌは下へ下へと突っ込むが、スリットなどの障害物へ突っ込まなければ、落ち着いてゆっくりとやり取りをすればよい。
基本的に竿でためていると、ゆっくり浮いてくる。
西村美穂ちゃんが初挑戦! 貝を割られバラシもあったけれど見事48cmをキャッチ
7月中旬の平日、朝4時の一番船に合わせて堺・出島の夢フィッシング乗船場に着くと、かなりの数の釣り人が集まっている。
よく釣れているチヌはもちろんだが、ここ数日前から釣れだしているというマダコ釣りの人たちだ。
あまりに人が多いので、一番船は少し早めて3時半に出るという。
へち釣りは視認が重要な釣りなので、釣りは明るくなってから…ということで、2番船での渡堤となった。
堺港のもっとも沖に位置する新波止の、通称・カーブで下りる頃にはちょうど日の出の時間。
まずは大田さんがタックルのセッティングと使い方を西村さんにレクチャーする。
真剣な表情で説明を聞く西村さんだが、とにかく波止の高さ、タックルなど初めてのことが多すぎて戸惑っている様子。

大田さんからタックルなどの説明を聞く西村さん
同じタックルセッティングで2人が横に並び、大田さんの見様見真似でまずは落とし込んでみる。
が、やはりイガイを波止際に入れた後の沈め方が、なかなか難しいらしい。
というのも、3m級の長い竿の先から糸が出ているため、穂先と壁際キープの位置関係が把握しづらいようだ。
では…ということで、大田さんが釣りを実践しながら、要所で勘所を説明する。
と、数投目に早くも大きくアワせた。
大田さんが強い引きを竿でためると、銀参郎が心地よく曲がり込んでチヌ独特の頭を振るようなゴンゴンという引きが伝わってきた。

大田さんが早々にヒットさせた
水面に浮いたのは50㎝に迫る大型チヌだ。
タモに収めて波止に上げ、計測すると47㎝の良型だ。
この後も大田さんは数投すると大きくアワせる展開が続く。
さすがに前情報通りの絶好調状態だ。
大田さんの釣りを見て、イメージもできたところで西村さんが釣りを再開した。
新波止は沖向き一帯がスリット状になっていて、マスと呼ばれる波止内の一段浅くなった箱のような場所とつながっている。
チヌはそのマスの中でも釣れるということで、西村さんは波がなく落とし込みやすいマスの中を中心に狙ってみることに。
マスの中の壁の奥で2カ所、側面で2カ所、スリットの柱の内向きと場所をどんどん変えて落とし込んでみる西村さん。
その時、大田さんから「今、アタりませんでした?」と声がかかった。
「エサを確認してみましょう」と指示が飛び、回収した仕掛けを確認すると、見事に貝が割られている。
やはりアタリがあったのだが、西村さんには判別がつかなかった様子。

見事にイガイを割られちゃいました
ここは気を取り直して再挑戦。
そして、何度か落とし込んでいると、突然「あ、あ~!今、アタリがあったような気がします。これがアタリじゃないですかねえ」と西村さん。
今回も、仕掛けを回収してみると、やはり貝が割られている。
その後も数回、貝が割られている状況でアタリはあるのに掛けられない状況が続き「やはり初めてでは難しいのか」と思い出した頃、マスの底付近で止めていた西村さんの竿が一気に曲がり込んだ。

竿が一気に曲がり込んで、チヌがマスの中を走り回る
アタリというより、魚が掛かって突っ込み竿先が持っていかれた感じ。
慌てて竿を立てようとする西村さん。
が、チヌの引きも強く、先手を取られているために、なかなか態勢を立て直せない状況。
と、次の瞬間、竿が跳ね上がった。
「たぶん、がっちりとアワせきれていないのでバレちゃったんですね」と大田さんの分析。
でも、何となくアタリや引きは感じ取ることができるようになり、あっという間に「へち釣り師への」成長を遂げつつある西村さん。
そして、ついにその時が来た。
マスの中でスリットの柱周りに落とし込んでいた西村さんが「来たっ!」と声を上げた。
見ると、すでに竿が一気に突っ込んで強烈な引きを受け止めている。
やり取りには慣れていない西村さんが、あまりの強い引きについ糸を出してしまう。
チヌはマスの中を走り回り、道糸が斜めに伸びる。
大田さんがすぐに横へ付いて「竿を起こしていきましょう」とアドバイス。
力いっぱい竿を起こして、態勢を整えて出された道糸を巻き取りにかかる。
水面に浮いたのは50㎝近い大型チヌ。
さすがによく引くはずだ。
大田さんの差し出すタモにすんなりと収まったチヌは、計測すると48㎝!
へち釣りでの初チヌが48㎝の大型に、西村さんも満面の笑顔で大喜び。

初挑戦で仕留めた第1号のチヌは、なんと48cmの大型
1尾を釣ると感覚が分かったのか、一人でエサ付け、場所選び、落とし込んでは移動という一連のへち釣りの動作は完全に習得。
そこで、大田さんが「西村さんは48㎝でしたね。今日僕は47㎝が最大なので、50㎝を釣りたいと思います」と笑顔で言うと、手慣れてきた西村さんとは離れて釣ってみることに。
西村さんも大田さんの方へと向かいながら落とし込んでいく。
すると、今度は明確に強いアワセが決まった。
と同時に「来ました~」とやや余裕の声が出た。
落ち着いてやり取りし、最初の1尾のように走り回らせる余裕を魚に与えずに水面に浮かせた。
そしてタモ入れ。
初挑戦から数時間で、すでに慣れた様子の西村さん。

2尾目のチヌは45㎝級
落とし込みやへち釣りはやや難しい敷居の高い釣りではないか…と思っていたのだが、朝からの一連の流れを見ていると、ビギナーにも時と場所を選べば十分に楽しめる釣りであることがイメージできた。
そんなことを思っていると、50mほど離れたところから、大田さんが大型のチヌをぶら下げて戻ってきた。
手に持っているチヌを計測すると、なんと50㎝ジャスト。
大田さんも有言実行で、先生の面目躍如。
めでたしめでたしで、この日は早々に納竿とした。

大田さんが面目躍如のチヌ50㎝をキャッチ
●交通:大阪市内方面からは新なにわ筋(府道5号)を南下し、大和川に架かる阪堺大橋を渡って、大阪臨海線を南下。
三宝公園前を過ぎて高架道路を越えて2つ目の信号(出島西町)を右折して、とれとれ市場の駐車場へ。
●問い合わせ:夢フィッシング(TEL:090・1079・6837)
※当日の様子は、youtubeフィッシングDAYS「アイドル夏の初体験 大阪沖堤防でチヌに挑む」https://youtu.be/f9VLdlSh6AEで視聴できる。
(文・写真/松村計吾)