レビュー
なぜ存在があるのかという問題は、哲学に限らず、宗教や文学も含めて、人類が長い歴史を通して考え続けてきた問題である。私がなぜいまここにいるのか、そもそも「私」とは何なのかというテーマについて、ぼんやりとでも考えた経験がある人は、案外少なくないのではないだろうか。
本書は現代思想において、「実存主義」の潮流を生み出した書物であり、著者サルトルの代表的著作に挙げられる。本書の記述は抽象的かつ難解で、長大な文章が続き、読み進めるためには膨大な時間と気力を求められる。なによりも、哲学の長い歴史における思索の積み重ねを踏まえたうえで議論がなされていることが、難しさに拍車をかけている。古代ギリシア哲学から近代哲学全般、デカルト、カント、ヘーゲルの思想の概要、とりわけフッサールの現象学とハイデガーの『存在と時間』における基本的な考え方を念頭におく必要があろう。
そうした前提知識がなくとも、先達の主張を乗り越え、新たな視座を提示しようとする、著者の野心の大きさに、読み進めるたびに圧倒される。そこから見えてくるのは、人間に対するサルトルのやさしい眼差しだ。
長い時間、たっぷりと難問に向き合い、考え続けることは、忙しい現代でなかなかないことではなかろうか。思考力の限界に挑戦するという、極めて有意義な時間の過ごし方になるのは間違いない。
本書の要点
・現象学の哲学は意識の現れに着目したが、意識は存在のあらわれであり、存在は存在しないということも同時に意味するため、存在と無を研究しなければならない。
・存在それ自体は、他の何かによってもたらされるのではなく、それ自体によって「それがあるところのものとしてある」という形で即自的に存在する。
・存在は、それが「あらぬ」ものとしての否定、無によって際立たせられる。無はあらかじめあるのではなく、存在の否定として、人間によって世界にもたらされる。
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