レビュー

教養のある人物を綴るには教養がいる。そのことを痛感させられる書物は世に多くない。

本書は、津田梅子の生涯について書かれたものだ。津田梅子といえば、新5000円札の肖像に選ばれたことで飛躍的に知名度を上げた人物だが、何を成したのかは名前ほど広く知られていない。
本書はその人生をただ説明したものではない。豊富な資料を用いて、津田梅子の軌跡と彼女を取り巻く環境を幅広く描いている。最大の特徴は、これまであまり語られなかった生物学者としての梅子に焦点を当てたことである。梅子の人生を「科学とジェンダー」の視点から論じた本としては、唯一無二といってよいだろう。
これを実現するのは、けっして簡単なことではない。
津田梅子が、一体どのような時代背景でどういう価値観をもって行動し、また彼女に関わった人々がどういう思惑を持っていたかなどが、本書を読めば手に取るようにわかる。これを実現するのはけっして簡単なことではない。当時の社会的な状況や、梅子が留学中に取り組んだ生物学、梅子の個人的な人間関係に至るまで、深く広範な知識と分析が必要とされるからだ。膨大な資料を丹念にまとめながらも、全体としては軽快な読み心地を保ちながら、その生涯と彼女の作った私塾のその後を流麗に物語る。詳しくてわかりやすい。
一読してわかるほどに並々ならぬ労力を割いて作られた本書は、津田梅子の生涯を知りたい人、そしてジェンダーと教育について理解を深めたい人にも、強くおすすめしたい。

本書の要点

・梅子は6歳の時にアメリカへと留学する。岩倉使節団に便乗したことで、伊藤博文といった政治家も同船した。梅子はアメリカで優秀な成績を収め、大学教育を経験せずに帰国する。
・梅子は帰国後、華族女学校の英語教師として働いたが、大学教育を受けるために再留学を志すようになり、これを実現させた。
・梅子はブリンマー大学で生物学を履修する。その成績は優秀で、日本人女性としてはおそらくはじめて、学術誌に共同論文が載ることとなった。大学側は彼女に研究者としての道を拓こうとしたが、梅子はこれを断った。帰国後、梅子は英学塾を開いた。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に3,300タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ