レビュー

脳は人間のすべてではない。だが、私たちの「人間らしさ」の多くを担っているのも、また脳であることに間違いはない。

神経科学的に見れば、私たちの思考や感情は、すべて脳の発火である。神経細胞のナトリウムイオン・チャンネルの扉が、閉じたり開いたりしているだけである。だが脳を理解するためには、そうしたものの見方だけでは不十分だ。いわんや心をや。
本書の扱うトピックは、神経科学の領域のみならず、文学や哲学にまで及ぶ。そして鮮やかに、「脳」という物質と「心」という現象に関して、さまざまな事象や角度から考察を加え、その輪郭を明らかにしていく。その手腕はじつに巧みで、著者は脳の秘密を解き明かす科学者であると同時に、私たちの実存をさらけ出す哲学者といえるのかもしれない。
まさに気鋭の脳研究者である池谷裕二氏による、脳講義シリーズ完結編にふさわしい一冊である。過去の著作である『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』もじつにスリリングであったが、本書を読んでいるときの興奮はそれを上回る。672ページの大著だが、高校生たちとのやりとりをベースにしていることや、著者のユーモアに富んだ語り口と親しみやすい表現により、読み始めると夢中になってしまう。読み通すと、『夢を叶えるために脳はある』というタイトルに込められた「意外な意味」が解明できるだろう。壮大な脳の旅を楽しんでいただきたい。

本書の要点

・「なぜ意識があるか」は神経科学最大の謎の一つだが、「夢がもとになって現実の意識が生まれた」という仮説は文字通り夢のある仮説である。
・ヒトの脳にとって効率的な学習方法は「困難学習」「地形学習」「交互学習」の3つである。これらの性質から、苦労したほうが学習効果は高いことがわかる。
・私たちは、脳内の信号に注釈(アノテーション)をつけることで、世界を再構成する。その繰り返しの先に「世界」、そして「私」が生まれていく。



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