レビュー

身近に困っている人や苦しんでいる人がいると、「助けたい」という気持ちが湧き上がってくるものだ。相手が親しい関係にあればなおさらだろう。

しかし、助けの手を伸ばすことを、ためらってしまうことはないだろうか。助けを申し出ても断られるかもしれない。助けようとすることで、相手に嫌な思いをさせたり、かえって状況を悪化させてしまったりするかもしれない。そう考えると、本当に助けていいのか迷ってしまう。だからといって、誰も助け合わなくなったら、社会は成立しなくなる。では、どうすれば良いのだろうか。
本書の著者である近内悠太氏は、その著作『世界は贈与でできている』で、贈与の概念を通じて世界の成り立ちをとらえようとした。続く本作では、利他的に他者へ助けの手を差し伸べることの意義や価値について論じようとする。プレゼントを贈る際には相手が喜ぶものを考えるように、誰かを助けるときには、相手にとってなにが大切かを考えなければならない。ときには、自分の大切なものより相手の大切なものを優先しなければならないときがあるだろう。自分の規範を逸脱する必要にもかられるかもしれない。それでも、自分を書き換えるような経験をすることは自分自身を救うことにもつながると、本書は説く。

本書を読むと、他人のために生きることは、自分を犠牲にすることでも偽善でもないと感じられる。他者を想うことが、相手も自分も救うことにつながるのであれば、より多くの人が共に助け合える社会が実現できるのかもしれない。

本書の要点

・利他がすれ違うことがあるのは、現代ではそれぞれの人が大切にするものが多様だからだ。目の前の他者の大切にしているものを共に大切にする「ケア」によって、自分の大切にしているものよりも他者の大切にしているものを優先させる「利他」が実現する。
・自分の大切なものより他者の大切なものを優先させる利他は葛藤が伴う。しかし、既存の規範から逸脱する不合理な利他は信頼を生み出す。
・既存の規範から逸脱する利他は、自己の言語ゲームを書き換える自己変容を伴う。他人の傷をケアすることは、自分の傷をケアすることにもつながる。



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