レビュー

この文章を読んでいる人の多くは、日本語母語話者であるだろう。では、その日本語をどうやって習得したか説明できるだろうか? ほとんどの人は「なんとなく気がついたらできるようになっていた」と感じているのではないだろうか。

もし第二言語として日本語を学んだ人がいれば、そのプロセスを多少は説明できるかもしれない。しかしそれでも、文法や読解など取り組んだ分野について話すことはできても、メカニズムについて説明することができる人は多くないだろう。言語の習得は、かように多くの「直観」を必要としているのだ。
一方、爆発的に普及し今もなお発展している生成AIが、言語を扱うことを得意としていることはよく知られている。それでは人間と生成AIの扱う言語は、同じなのだろうか? それともまったく異なっているのだろうか?
本書の著者である今井むつみ教授は、認知科学・言語心理学・発達心理学を専門とし、こうした言語の習得がどのようなプロセスを経て行われるのかについて解き明かしてきた研究者である。著者はその立場から、こう結論する。身体に接地した「直観」こそが生成AIが持たず、人間にしかない「思考力」であると。
私たちは幼児期に、誰に習うでもなく母語を習得するという偉業を成し遂げている。人間にしかできないことは、まだまだ残されている。

本書の要点

・「ことばの力」と「考える力」は右足と左足のように、互いに支え合いながら成長していく関係にある。
・人間は幼児の頃から、「アブダクション推論」と呼ばれる高度な推論能力を活用して言語を習得している。
・推論を働かせるためには、知っている情報をすぐに取り出せる「情報処理能力」と、意図的に必要な情報のみに注目することで思考をコントロールする「実行機能」が不可欠である。


・生成AIは身体を持たず、直観が働かない。身体感覚に根ざした直観は、人間だけが持つ能力である。



フライヤーでは、話題のビジネス・リベラルアーツの書籍を中心に毎日1冊、10分で読める要約を提供(年間365冊)しています。既に3,300タイトル以上の要約を公開中です。exciteニュースでは、「要約」の前の「レビュー」部分を掲載しています。

編集部おすすめ