レビュー
「できることならマネジメントはしたくない」。そう考えるITエンジニアは少なくないだろう。
自身で手を動かし、新しい技術に触れることに喜びを感じる。中には「人付き合いが苦手だからこの職業を選んだ」という人もいるかもしれない。そうしたエンジニアにとって、「部下や予算の管理」という役割への抵抗感は自然なものだ。
本書の著者である関谷雅宏氏もその一人だ。本書ではマネジメント職に任命されてからの試行錯誤の様子が綴られているが、数々の問題に直面しながらも自分なりのマネジメントスタイルを模索し、構築していく様子には大いに心を動かされた。その言葉には自身の経験に裏打ちされた説得力があり、読む人を強く惹きつける。
「マネジメントをやりたくない」と感じる理由のひとつに、「自分で作業ができなくなる」という不安が挙げられる。自ら手を動かすことに喜びを見出すエンジニアにとって、それは大きな葛藤となる。しかし著者はマネージャーとしての役割を果たしながらも新しい技術を試し、手を動かすことをやめなかった。その姿勢こそが部下に良い影響を与えると信じていたからだ。
著者は「マネジメントも技術の一種である」と語る。「自分はマネジメントに向いていない」と感じる人も、それを技術のひとつとして学ぶべきスキルと捉えれば、肩の力を抜いて取り組めるかもしれない。
「マネージャーになること」に不安を抱えるすべてのエンジニアに、手に取ってもらいたい一冊だ。
本書の要点
・組織の成果と個人のスキルアップを両立するには、全力で業務に挑まず、20%ほど学ぶための時間と力を残しておくことだ。
・マネージャーになっても新しい技術を追いかけていい。
・マネジメントには正解がない。技術的な探求をするように、マネジメントの正解も「自分で探していい」のである。
・技術者の部下のキャリアパスを考えるのもマネージャーの仕事だ。著者は優秀な部下の評価と報酬を上げるため、「問題解決する姿を役員レベルの人たちに見せる」ことを試みた。
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