レビュー

「Sogno di Volare(飛翔への夢)」。これは本書でも触れられている、文明を題材にしたゲーム『Civilization』のテーマソングだ。

その雄大な曲調と、レオナルド・ダ・ヴィンチの手記にインスパイアされた歌詞は、本書の壮大さに近しいものを感じさせる。
ITという言葉が世間に浸透して随分と時が経った。現在はAIの進展が目覚ましい。一方で、こうした技術が必ずしも正しい方向へ向かっていないことも、私たちはよく知っている。動画やSNSによる無責任な情報の氾濫は、民主主義を危うくする。心ない誹謗中傷や陰謀論が民主主義を攻撃した例を、すぐに思い浮かべられるはずだ。
本書はこうしたITと民主主義の深い分断を埋め、さらに未来に向けて技術の翼を羽ばたかせようとする。『Plurality』は、経済学者グレン・ワイル氏と台湾の初代デジタル発展省大臣のオードリー・タン氏によるオープンソースの書籍である。彼らは「社会的差異を超えたコラボレーションのための技術」という新たな概念を提示する。多様な学問や技術的知見を総動員し、多元的なコラボレーションによる未来を描くことを目指している。この本自体が、様々な専門家の執筆協力によって生まれた作品だ。そして、共鳴した人々に、「Pluralityを推進する仲間になってほしい」という願いがひしひしと伝わってくる。

技術は翼を与えてくれる。だが、どこに向かうかは私たち次第だ。『Plurality』は、その選択に必要な羅針盤になってくれるだろう。

本書の要点

・IT技術の発展は私たちに恩恵をもたらした一方で、社会の分断も生んだ。民主主義とITは相いれないものとされ、互いに攻撃するようになった。
・台湾の政治は、ITと民主主義が手を取り合った希有な例である。民主主義とITの深刻な分断を乗り越えデジタル民主主義を成熟させていった。
・「プルラリティ(多元性)」は技術の方向性を定め、社会の発展につなげるための概念である。それはまず、社会は様々な要素が関連し合う、複雑かつ多元なものであるという理解からはじまる。



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