レビュー
ただなんとなく、人生の時間が過ぎ去っていく。それにどこかソワソワしてしまうのは、生きているからこそだ。
「生きるためにはなんらかの主体的な理由」が必要になる。この「生きるモチベーション」となるのが、「幸せになること」だという。人間以外の生きものは「生きることに理由などつけずに、ただ生きているように見える」。幸せとは一体なんなのだろうか。
著者は生きるモチベーションとしてのこの「幸せ」を、「死からの距離が保てている状態」と定義する。その観点からすると、ヒトの「幸せ」を妨げている要因のひとつは、遺伝子であることがわかる。
「好奇心は猫を殺す」という古いことわざがある。遺伝子レベルで興味津々であることが宿命づけられている人類は、自らの好奇心の赴くまま、脳や身体が追いつけないレベルの技術をも開発してきた。しかも、適切な使い方がわかっていないのに、次から次へと新しい「遊び方」を編み出してしまう。自分が生きものであることを忘れ、気づいたときにはさまざまな「現代病」に冒されている。SNS疲れ、スマホ疲れといった個人的・精神的なものから、環境破壊などの地球規模のものまで、すべてはヒトの好奇心が引き起こしているといっても過言ではないだろう。
遺伝子が求める「幸せ」のための行動が、なぜこれほどまでに「死からの距離」を縮める結果につながっているのか。
本書の要点
・生きものは寿命を全うできないことがもっとも不幸である。したがって、「死からの距離が保てている状態」を「幸せ」と定義する。
・ヒトはどこまでもベターなものを求め、そこに幸せを見つける。このベター志向は、生物学的に本能といえる。
・社会性の生きものであるヒトは、生存本能だけでなく、コミュニティを構築し、そこに貢献することが、死からの距離を保つために重要となった。
・ヒトは原始以前の遺伝子のまま現代を生きているが、急速なテクノロジーの飛躍的な進歩によって「遺伝子と環境の不適合」が生じている。それによって幸福感を得にくくなっている。
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