レビュー

上がりつづける物価、下がらない米の値段。行列のできるお店は、目玉の飛び出るような「インバウンド」価格。

最近は毎年のように賃上げされていると聞いているのに、むしろしんどさレベルが上がっている気がする。
近代日本の代表的歌人・石川啄木は、「はたらけど/はたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る」と詠んだ。啄木自身のパーソナリティはさておき、この短歌からにおい立つものについて、身につまされる感覚を覚える人は少なくないだろう。
日本では2023年までの25年間で、時間あたりの生産性が3割上昇しているのにもかかわらず、実質賃金は横ばいのままであり、むしろ円安インフレで3%下がった。実質賃金が上がらないのは生産性の低さが原因ではないのだ。しかし、大企業の経営者であっても、儲けを溜めこんだまま人的資本経営に慎重な姿勢を崩さず、「生産性が上がらなければ、実質賃金を上げられない」と真顔で主張するという。
ノーベル経済学賞を受賞したアセモグルとロビンソンのベストセラー、『国家はなぜ衰退するのか』で描かれている収奪的社会は、日本にも当てはまっているのではないか。だから長期停滞から抜け出せないのではないか。イノベーションの本質は収奪的であることを忘れていないか。そうした著者の関心にもとづいて論じられる本書の内容は、日本に生きるすべての労働者が知っていなくてはならない。私たちは、ただ奪われるだけでよいのだろうか。

本書の要点

・日本では、生産性が向上しているのにもかかわらず実質賃金への反映がまったくなされておらず、「家計が収奪されている」。


・日本の産業界は、長期雇用制維持のために非正規雇用に依存するようになり、「収奪的な『二重労働市場制』を生み出した」。
・団塊世代の延長雇用、細切れな時間の女性の労働参加が促進されたことで、人手不足社会の影響が出るのが遅れ、残業規制の広がりが労働供給を頭打ちにしたことは、日銀の誤算であった。
・野生的なイノベーションという存在は、適切なコントロールを失うと収奪的となってしまうことを忘れてはならない。



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