レビュー

鳥嶋和彦は、元・集英社の編集者であり、一時は『週刊少年ジャンプ』の編集長として、同誌の黄金期を築いた中心人物の一人である。『ドラゴンボール』の鳥山明をはじめとして、多くの才能ある作家たちとともに数々のヒット作を生み出してきた、おそらくはもっとも有名な漫画編集者。

そんな鳥嶋が自身の編集者人生を振り返り、創作と仕事の現場で起きていたことを正直に語ったのが本書『ボツ』である。
鳥嶋は担当作家の原稿を容赦なく「ボツ」にすることで知られており、鳥山が次の連載作品を完成させるまで、原稿を500枚ボツにしたという伝説があるほどだ。それは一見、厳しすぎる理不尽な振る舞いに思える。しかし本書を読めば、それが単なる否定ではないことがよくわかる。
鳥嶋は言う。読者にとって編集者とは、最初の読者である。読者が曖昧なことを言うはずがない。おもしろいか、おもしろくないか、それだけだ――。
本書はインタビューの形式を取っており、その過程で鳥嶋の豪放磊落な伝説がおおむね事実であることが判明していく。しかしそれ以上に伝わってくるのが鳥嶋の仕事ぶりの真摯さと徹底ぶりである。鳥嶋は常に作家の才能を信じ、そして読者にとってのベストを追求してきた。結果がよくなければ情報を集めて問題がどこにあるのかを分析し、作家と二人三脚でアイデアを出していく。
確かに編集者としてのセンスが発揮される場面も多々描かれてはいるのだが、本書から浮かび上がってくる鳥嶋の姿は、どこまでも真摯に課題に向き合うビジネスパーソンであった。

本書の要点

・鳥嶋和彦は『ドラゴンボール』の作者・鳥山明に対して、500枚以上の原稿を「ボツ」にした編集者として知られるが、それは才能を信じぬき、読者におもしろいものを届けるための徹底した姿勢の反映だった。
・『ドラゴンボール』打ち切り寸前から「天下一武道会」で巻き返したエピソードに象徴されるように、読者の反応を見ながら臆せず大胆に軌道修正する柔軟性が、鳥嶋の真骨頂である。
・編集長時代には旧企画を白紙に戻し、新人の起用に賭けた。「読みにくい」として『ONE PIECE』連載に反対しつつも、議論を尽くし最終的にGOを出すなど、作品とその向こう側にいる読者に真摯に向き合い続けてきた。



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