レビュー

「人事異動で一部の人が変わっただけで、なぜ拠点全体の業績が大きく伸びるのか」。この問いにあなたならどう答えるだろうか。


日立製作所フェローとして世界をリードする矢野和男氏は、20年以上にわたり「人と組織の謎」を解き明かそうとしてきた。ベストセラー『データの見えざる手』や『予測不能の時代』に心を動かされた方も多いだろう。本書で提示されるのは、「ファクターX」、すなわち人間関係の構造に潜む法則である。
驚くべきは、著者らが独自開発したセンサで「人の交流」を測定し、膨大なデータを解析した点だ。その結果、「V字」が多い組織は孤立感を生みやすく、「三角形」の関係性が多い組織は幸福度も生産性も高いことが明らかになった。たとえば、よく会話する相手を2人選んだとき、彼らが互いに会話をしない関係なら「V字」、会話する関係なら「三角形」となる。
タイトルの「トリニティ」とは、異質なものを結びつけ、新しい価値を生み出す思想だ。分断が深まり多様性のマネジメントに悩む現代だからこそ、大きな意義を持つ。1兆件ものデータに裏打ちされた科学的組織論は、まさに著者らの研究の集大成といえる。
組織の幸福と生産性は両方追求できる――。その根拠と実現への道筋を描く本書は、経営層や人事だけでなく、組織やコミュニティをより良くしたいすべての方の羅針盤となるだろう。何より、人と組織が飛躍するための試行錯誤こそ尊いプロセスだと気づかせてくれる。
読後には、きっと身近な「V字」を「三角形」に変えてみたくなるはずだ。

本書の要点

・V字の関係は「用事だけのつながり」であり、孤立感やストレスを引き起こす。一方で、三角形の関係性を持つ組織は、孤立感が減り幸福度も生産性も高まる。強い三角形と弱いV字の両立こそが、幸せなつながりの理想形である。
・複雑さを受け止めるには多様性が必要となる。そのためのカギは、分割を越え、統合を志向する思考法、「トリニティ・シンキング」だ。



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