レビュー

「この曲を聴いた感想を書きましょう」
音楽の鑑賞の授業でこんな指示が出されたとき、たいていの人は「答えになりそうな感想」を予想して書いていたはずだ。特にクラシック音楽では「定番の感想」が決まっている。

だから、本当に感じたことを語り合うよりも、自分の感想が「正解」に近いかのほうが気になってしまう。
本当の感想はなんとなく口に出しづらいような空気があるなかで、本書『すばらしいクラシック音楽』は、ドイツで声楽家として活躍する著者が、曲を聴いて感じたことを積極的に言葉にしている。これは、存外勇気のいることだ。それでもなお著者が自分の感じたことを言葉にするのは、音楽が心のコミュニケーションであるという考えがあるからだ。音楽が感情の表現なのであれば、受け手にも感情の変化が起こることは必然だ。そしてそれは、自分が感じたことを大切にしてこそ、ようやく完成するものであるともいえる。
本書はクラシック初心者の入門書にもなれるよう、作曲家の生涯や作品の背景にも触れられているが、それ以上に、著者がその作曲家に抱いている印象や、曲の雰囲気についても丁寧な描写がされている。バッハの音楽は「心の声」、シューベルトは「天国的な美しさ」などと言われると、ついつい紹介された曲を聴いてみたくなってしまう。何百年も前に書かれた音楽が、著者の心を揺さぶり、人生までもを導いている様子を見ていると、同じ音楽を聴いたら自分にはどんな感想が浮かぶだろうかと心の声に耳を傾けたくなってくるはずだ。読む前と後では、曲の聴き方が大きく変わってしまうに違いない。

本書の要点

・両親、妻、子どもたちと、バッハは幼少期から多くの身近な人を亡くしている。多くの宗教音楽を作ったバッハが悲しみや救い、癒しや祈りをテーマにしたのは、神に救いを求めていたからなのかもしれない。


・シューベルトの音楽は、聴き手を気づかないうちに別世界へ連れて行ってしまう、天国的な美しさがある。
・集中力を極限まで高め、徹底した完璧主義から生み出されたラヴェルの音楽は、色彩豊かな響きで聴き手を異世界へと導いてくれる。



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