レビュー

1993年から2004年に卒業し、就職に大きな割を食ったとされる「氷河期世代」。本書はその実像に迫り、マスコミが作り上げた虚像を打ち破る熱い一冊である。


著者は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏だ。リクルートワークス研究所「Works」編集長やリクルートキャリアフェローなどの経験を持つ、雇用の現場をよく知る人物だ。著書も数多く、2025年に上梓した『静かな退職という働き方』は各方面で話題を呼んでいる。
著者は、巷で騒がれる「就職氷河期問題」とその実情には乖離があると主張する。「大学卒業時が氷河期にあたったため、熟年になっても非正規の仕事を余儀なくされている」というイメージがあるかもしれないが、実のところ30代前半には8割近くが不安定雇用を脱しているという。この世代でいまも不安定な職に就いているのは、非大卒者と女性。氷河期問題の実態とはつまり、性差・学歴差問題なのである。
真摯に統計と向き合えば氷河期世代の実像は見えてきたはずなのに、なぜそうなっていないのか。問題をこじらせてきた犯人こそ、問題を報じる当のマスコミと、支援策を行う行政だと著者は喝破する。両者が内包する問題から、氷河期問題は今後も長引く可能性は高い。
ここまで書き進めたら、東京都人事委員会が「就職氷河期世代」を対象にした令和7年度の都職員採用試験の応募状況を発表、という報が入ってきた。「大卒程度」が対象の計10人の募集に641人が応募、応募倍率は64.1倍だという。
“動き始めた列車”はなかなか止まらないということか。

本書の要点

・統計を見ると、「就職氷河期に卒業した大多数が無業・フリーター」というのは、明らかに間違っている。
・大学卒業時点で無業・フリーターだった氷河期のどん底にあった2000年卒生は、30代前半までに約75%が不安定雇用を脱している。
・氷河期世代の40代前半における非正規雇用の8割以上は女性である。残りの男性の大多数は非大卒者だ。氷河期非正規問題を突き詰めれば、性差と学歴差の問題に行き着く。
・就職氷河期問題をこじらせた犯人は、マスコミと行政である。



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