レビュー
本書の価値は、企業改革の焦点を制度の微調整から「前提の設計」へ引き戻した点にある。戦後から現在までを見晴らすアカデミックな視野で現状を読み解きつつ、現場で動かせる提案を並走させる著者の手腕が光る。
本書の特にすぐれた点は以下の3つだ。第一に、組織を動かす見えない前提を言語化し、なぜ改善が空回りするのかを因果で解き、経営・人事・現場が共有できる共通言語を与えてくれる。第二に、慢性的な人手不足と長寿化という条件を鑑み、雇用の「量」一辺倒の方針から、サステナブルキャリアを軸に据える設計へと発想転換を促してくれる。そして第三に、社内外をまたぐ人の行き来を土台に、配置・評価・報酬を束ね直す道筋を提示し、固定観念に支えられた慣行をほどく実践手順を示してくれる。
合意形成や短期業績の揺り戻しに備えた対話設計を含め、理念と運用を無理なくつなぐ羅針盤となる一冊だ。理論面だけでなく、外部人材の活用や兼務、時間と場所の選択肢を増やす工夫など、すぐ検討できる提案も多く含まれている点もすばらしい。自社の採用・配置・評価・報酬を点検し、何をやめ何を残すかの優先順位を引く重要なヒントを得られるだけでなく、より高い視座から日本の企業の問題点を分析できるようになるだろう。
制度の全体像を描き直したい経営層、人事、現場責任者、政策担当者に強くすすめたい。
本書の要点
・日本企業を縛る正体は(1)職種・勤務地・時間の無限定、(2)標準労働者、(3)マッチョイズムからなる「三位一体の地位規範」である。これらが相互強化することで、改革を鈍らせている。
・三位一体の地位規範信仰は人口ボーナス期には機能したが、人口オーナス期の構造的人手不足下では通用しない。潜在労働力の顕在化と希望出生率の実現へ、前提の再設計が必要である。
・変革の処方箋は「無限定/限定中立社会」をめざすところにある。地位の有無を越えて連帯し、正規・非正規・フリーランスの往来を開き、無限定性プレミアムと処遇格差を縮めるべきだ。
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