レビュー

推し活で期待される推しの成功譚、就活面接で求められるドラマティックな経験談。こういった過剰にも感じられる物語性に対し、著者はこう書く。

「何かがおかしい」と。青春はドラマティックでなくてもいいし、ファンが望むストーリーを生きようとするアイドルに対して胸が苦しくなる。それは、SFやファンタジーのような「フィクショナルな物語を愛している」ゆえだ。だからこそ、人びとは「あまりにも物語の力を信じすぎているのではないか」、と感じるのである。
したがってこの本は、いまもてはやされている物語に抗うためのものだ。「物語を愛し続けるために、物語と私たちの適切な関係を築き直すための概念と思考を作り上げていく」ことが、その核たるミッションとなる。何でもかんでも物語という装置のなかに放り込んで、説明可能にしようとしていないか。人間は、人生は、そんなものではない。人を夢へと運んでくれるはずの物語が、賽の河原で積み上げる石のように虚しいものへと貶められている。いまや物語は、あなたを空気ごと閉じ込める箱になってしまった。そうした著者の叫びが聞こえてくるようだ。
〈わたしの人生〉は真実、“わたしだけのもの”だ。
それを実感しながら生きていくには、安易な物語化に抗う必要がある。私たちが強いられている物語とはどのようなもので、私たちは何を失いつつあるのか。その一端でもつかむことができれば、あなたは自由への一歩を踏み出せている。本書はそのための扉のひとつとなるはずだ。

本書の要点

・現代社会で物語化が重視される背景を説明するものとして、3つの仮説が挙げられる。「理解の願い」「情動のリンクの願い」「自己像の願い」だ。
・来歴の話をする自己語りによって互いの信念や情動が理解できると思われている。しかしその自己語りには、改訂排除性と目的閉鎖性がある。
・私たちは「物語を『使って』情動を抱く」が、その物語的足場はあくまで虚構の足場でしかない。
・MBTIなどによってキャラクター化されたものを自己の模範者とするとき、それを「自分の本質」であると見誤るリスクがある。



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