レビュー
名作にはつきものの「名ゼリフ」。人々の心をがっちりつかむ名ゼリフ(=パンチライン)を、名ゼリフたらしめているものは何だろうか。
「エンタメ8割、言語学2割」という言葉どおり、堅苦しさはまったくない。「超メジャー作品から入るのは気分が乗らない」という理由から、最初に取り上げられるのが「想定される読者の1割くらいが見ていそうな映画」の解説から始まるのもパンチが効いていて面白い。「全作品を鑑賞済みだ」という読者は少ないかもしれないが、著者の好みが全開の選定だからこそ、語り口には作品愛が溢れている。紹介される「名ゼリフ」のパワーも相まって、未見の作品は鑑賞してみたくなってしまう。
「エンタメ」の部分だけでなく、「言語学」の部分も興味深い。名ゼリフにつめこまれた「言語学的なフック」に、作者はそれぞれのセリフをどれだけの熱量で練り上げたのだろうと感嘆してしまう。たった1行のセリフに込められた、多重な意味を知ると、新しい作品を鑑賞する際にセリフを眺める視点が変わりそうだ。セリフに込められた言語学的なしかけを知りたい方、言語学者の視点を知りたい方に、本書をおすすめしたい。
本書の要点
・『タッチ』で浅倉南が上杉和也に送った色紙には「めざせカッちゃん甲子園」と書かれている。不思議な語順だからこそ出せる、妙な語呂の良さがこの名ゼリフの特徴だ。
・「最もフィジカルで最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」という『地面師たち』の名ゼリフでは、「両唇音」という赤ちゃんが最初に発する子音の単語が並べられている。
・『ドラえもん』の「おばあちゃんのおもいで」という話に出てくる「だれが、のびちゃんのいうこと、うたがうものですか。」では、のび太への愛情がいくつもの言語学的要因で表現されている。
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