レビュー
夏目漱石の前期三部作の第二作にあたる『それから』は、近代日本において「自由に生きる」ことの意味を、一人の知識人の選択を通して描いた長編小説である。
主人公・代助は、財産家の家に生まれながら職業を持たず、社会的義務から距離を置いて生きている。
物語は、旧友・平岡の帰京を機に、その妻・三千代と再会することで動き出す。かつて自身が仲立ちした結婚であったにもかかわらず、生活苦と愛情の欠如に疲弊した三千代の姿に代助は衝撃を覚える。金の問題、家から迫られる縁談、そして抑えきれない三千代への愛情――それらが重なり合い、代助は「自然に従って生きる」ことと「社会的に正しく生きる」ことの間で引き裂かれていく。
代助が最終的に選ぶのは、父の庇護も、安定した将来も捨てて、自然の情に殉じる道である。その選択は決して理想的には描かれない。むしろ、愛を選んだ先に待つ貧困、孤立、責任の重さが冷徹に示される点に、本作の厳しさがある。理想を抱く知識人が現実社会の中でどのように破綻していくのかを描いたこの小説は、100年以上を経た今もなお、自由と責任の問題を読者に突きつけ続けている。
本書の要点
・裕福な家庭の次男として生まれた長井代助は、父のものとも兄のものともつかぬ金で、「上等人種」として生きている。
・代助は同窓生の妹である三千代を好いていたが、友人である平岡の頼みで二人の間を取り持ち、結婚の仲立ちをした。
・生活が困窮し、夫からの愛を失いつつある三千代を前に、代助は彼女を「譲った」事を後悔し、社会的には許されない関係を発展させていく。
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