レビュー

著者の三宅香帆さんは、2025年のNHK紅白歌合戦のゲスト審査員に選ばれるなど、時代を代表する文筆家として注目される若手文芸評論家だ。モヤモヤした現代人の思いを言い当て、それでいて寄り添うような言葉選びは、要約者も憧れるところである。

本書にもその魅力は存分に表れており、あふれるばかりの“文体愛”、もといオタクぶりは、やや厳めしい「文芸評論家」の肩書とのギャップと相まってなんとも好ましい。
本書では、平安の古典から近現代の名作小説、著名人のブログにドラマの脚本、アイドルソングまで、52の文体モデルが紹介される。多種多様な文体を自然に使いこなす著者の文章は、興味を惹きつけて離さない。
とはいえ、語尾を変えたり表記を変えたり……といった文体テクニックは、誤解を恐れず言えば「小手先」である。けれど、そんな小手先が画家の“タッチ”と同じく、「文章の芸術」たる文芸の表現、ひいては読み手の心への届き方を変える「書き手の味」となるさまは、マジックのように鮮やかに映る。
情報が氾濫する中、読み飛ばされない文章を書くには「自分の手で書くしかない!」と著者は断言する。「正しくわかりやすい文章」はAIにも書けるが、読み手の心をつかむのは、人間だからこそ出せる独特の味ではないだろうか。
同じ内容でも、その効果を飛躍的に高めてくれるのが文体だ。本書はそんな、現代人にとって重要なスキルを伝える指南書であるとともに、読むこと・書くことの知られざる楽しみ方を教えてくれる、斬新な知的エンターテインメントでもある。

本書の要点

・文体を知ることで文章がもっと楽しくなる。本書では、読み手を惹きつけるさまざまな文体を解き明かし、読まれる文章作成のヒントを伝える。
・実直な言葉を重ねると稚拙に見えるリスクがあるが、人間性も伝えられる場合がある。

開高健の「その頃、ヴェトナムは遠い、忘れられた、にぶい痛みの国であった」はその一例だ。
・個人的体験は抽象度を高めることで、普遍的な「あるある」に昇華させることができる。



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