主力大量放出も勢いに陰りなし。古豪復活にかけるユニオンと町田浩樹の今

2023-24シーズンのベルギーリーグが7月28日に開幕した。連覇を狙うロイヤル・アントワープを始め、4連覇を阻まれて再起を図るクルブ・ブルッヘ、デンマーク代表FWカスパー・ドルベリを獲得するなど積極的な補強で逆襲を試みるアンデルレヒト、強力なFW陣を擁するヘントなどに注目が集まる中、第3節終了時点では昇格3年目のユニオン・サン・ジロワーズ（以下ユニオン）が3連勝で首位に立っている。キャプテンら主力の大量放出 2022-23シーズンは、優勝プレーオフ最終節クルブ・ブルッヘ戦で、あと一歩のところで優勝を逃したユニオン。短時間で目まぐるしく順位が変動する中、優勝の可能性が閉ざされていたクルブ・ブルッヘ相手に優位に試合を進めていたが、本間至恩の1ゴール1アシストの活躍もあり、最後の最後で優勝を逃してしまった。 シーズン終了後、カレル・ヘラールツ監督とは報酬面で折り合いがつかず、契約満了となった。さらに2019年からキャプテンを務めていたマルタ代表MFテディ・テウマがスタッド・ランスへ引き抜かれ、強力2トップを形成していたFWシモン・アディングラは保有元のブライトンへ復帰し、ナイジェリア代表FWビクター・ボニフェイスはレバークーゼンへと移籍した。 攻撃陣のみならず、ベルギー代表DFシーベ・ファンデルヘイデン（マジョルカ）、モロッコ代表DFイスマエル・カンドゥース（ヘント）、モロッコ人MFウッサマ・エル・アズジ（ボローニャ）、オランダ人右SBバルト・ニューコープ（フェイエノールト）、守備的MFセンネ・ライネン（ブレーメン）など、レギュラーで活躍してきた選手のほとんどを引き抜かれた。新監督の下でポジションをつかむ町田 監督に加えて主力の大量放出に見舞われたが、ユニオンは開幕から3連勝と絶好調だ。同じブリュッセルのライバルであるアンデルレヒトに2-0で勝利すると、スタンダール・リエージュ戦、OHルーベン戦と連勝を重ねて、3試合で8得点1失点と圧倒的な成績を収める。 新監督に就任したのは、ドイツ人のアレクサンドル・ブレッシン。2020-21シーズンに下位が定位置だったオーステンデを5位に導いたことでベルギーリーグ最優秀監督の実績を持ち、2020-21シーズン途中からはジェノアを率いていた。長年RBライプツィヒの育成機関で指導していた経歴から、若手選手を主軸に置いた強度の高いフットボールを演じ、少ない手数でゴールを奪うハイプレスショートカウンターを得意としている。 開幕戦でアンデルレヒトに2-0で勝利すると、スタンダールに1-0、OHLに5-1と、チームは絶好調だ。特に昨季、当時ドイツ2部のインゴルシュタットから加入したドイツ人FWデニス・エッカートが4得点と大活躍している。 ユニオンで3季目を迎える日本代表DF町田浩樹は、今季は開幕から3試合連続でフル出場している。3バックの左CBのレギュラーを勝ち取った町田は、DFケビン・マカリステル、GKアントニー・モリスらと連携を取りながらハイラインを形成しているが、果敢な攻撃参加からミドルシュートを狙うなど、ブレッシンが求める最終ラインからの攻撃参加に一役買っている。第3節ではカウンターから駆け上がり、右サイドからのアーリークロスを頭で合わせゴールを割った。惜しくもオフサイドで得点は取り消されたものの、今シーズンは町田の積極的な攻撃参加に大いに期待ができる。ブライトンのスカウティングシステムを共有 2年連続優勝を争ったユニオンだが、クラブの予算は約1500万ユーロとベルギーでは中～下位レベルの予算規模だ。そのため、主力を担った選手も高額な移籍金を提示されれば放出せざるを得ない。そして、移籍金収入はクラブの練習施設やスタジアム建設費用に多く充てられる予定だ。ユニオンはプレミアリーグを賑やかすブライトンのオーナーであるトニー・ブルームが株式の過半数を保持するが、自立したクラブ運営を優先するため、ブルームは巨額な投資は行っていない。 しかし、ユニオンはブライトンの姉妹クラブという立場を十二分に活用している。プレミアリーグで脚光を浴びるブライトンのスポーツベッティングを由来とするデータベース・アルゴリズムを駆使したスカウティングシステムは、ユニオンにも同様に導入されている。獲得する選手の多くは、移籍金100万ユーロ（約1億6000万円）程度が多い。ユニオンの選手獲得戦略は、まさに「ブライトンのミニチュア版」と呼ぶにふさわしい。 2021-22シーズンに半世紀ぶりに1部に復帰してから、これまでの不遇の歴史をひっくり返すようなサプライズを起こし続けているユニオン。独自のスカウティングシステムを武器に、過小評価された選手たちを駆使しながら、今季こそは89年ぶりのリーグ優勝に期待したい。Photo: Getty Images

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