【演劇えんま帳】PERFECT
“攻める”俳優座が命の選別、生と死の決定権をめぐる重いテーマに挑戦した。
ドキュメンタリー番組のディレクター・川上早苗(若井なおみ)は、同僚のカメラマン・滝田亮二(千賀功嗣)との間に子どもができず、不妊治療を続けたが成果は上がらず、そのこともあって離婚したばかりだ。
今、早苗が取り組んでいる特集は「出生前診断問題」。
出生前診断とは、妊娠中に胎児の病気や異常を調べる検査のこと。出生前診断の目的は多岐にわたるが、その中で大きいのは夫婦が出産後の心構えを持つこと。
取材相手は飲食店を経営する青木美花・悠(天明屋渚・小泉将臣)夫婦。美花は第2子を妊娠中で、出生前診断で胎児がダウン症であることが判明した。
悠は命の選別に反対で、出産に前のめり。しかし、美花が夫の精神的コントロールに対して抵抗があり、出産をためらっていると見て取った早苗は継続取材を決める。
一方、早苗の母・幸子(天野真由美)が大腸がんと診断される。万が一の場合、延命処置をどうするかなど最終的な結論を出すためにACP(別名「人生会議」)を父・実(森一)に提案する。ACPは家族が望む医療やケアについて前もって考え、医療・ケアチームと共有する取り組みのこと。
法的に中絶が認められるまであと数週間。美花と悠の決断は。
出生前診断問題は、優生思想と密接な関係にある。「悪質」の遺伝的形質を淘汰し、「優良」なものを保存するという優生思想によって日本でも戦後の優生保護法のもとで断種が続いた過去がある。
一方で近年、「私の体は私のもの」と自分の体に関する決定を自分でするという女性の「自己決定権」論議がある。
むろん、自己決定による中絶は優生思想とは違うという考え方が主流である。だが、人は国家や社会の価値観を内包する。そこから自由になれるのか。
作者は安易な結論に向かわない。
「不妊医療」「出生前診断」「人生会議」に共通するのは生と死に関する問題について、最終的に「個人」に決定を求めることだ。完全無欠な人間がいないのと同じく、人生の「先」は誰にも予想がつかない。
「未来だって何一つ確実なことはない。それならば、今をどうやって正解にしていくかのほうが大事だとわかったんです」との美花の言葉に「軽々に結論を急ぐのではなくそこに至る過程を大事にすべき」という作者の意図が込められていた。
1時間40分。6月19日まで六本木・俳優座スタジオ。★★★★
(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)