【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#247


 橋下徹


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 大阪府知事・大阪市長を経て、現在は政治評論家、コメンテーターと幅広く活躍されていますが、私の知っている「橋下徹さん」は茶髪にサングラスでテレビ界を席巻しておられた頃です。関西の弁護士会の会長さんとご一緒することが多くあり「あの橋下は言うこと聞きよらへん!」とお会いするたびに怒っておられたので、橋下さんをゲストにお呼びする際もプロデューサーから「大丈夫かいな?」という声が上がりました。

ところが事前打ち合わせに行ったディレクターの「むっちゃいい人ですよ!」の一言で出演が決まりました。


 本番当日、トレードマークの茶髪ではありましたがサングラスはしておらず、拍子抜けするほど腰の低い方で、人懐っこい笑顔が印象的でした。


「弁護士といえば地味なスーツを着て、七・三に分けた髪の毛で、よほど有名な方以外は誰がいても同じように見えるでしょ。あれじゃつまんないでしょ。人権を大切に個性を大切にと言いながら、弁護士の個性は許さないっていうのは違うと思うんですよ。僕は自分の格好は許容範囲だと思ってます」と自己紹介を兼ねた説明をされました。「でも自分が頼むなら、僕は選ばないかな……」という発言に出演者から「選ばへんのかえ!」と総ツッコミ(笑)。


 弁護士のおかしな判断の話になると、「これはおかしい、社会通念上許されないと思いますね。僕が相手の弁護士ならそこを徹底的に突きますね」と“弁護士・橋下徹”を前面に押し出してしっかり主張をされていました。


 そんな中、印象に残っているのは弁護士のあり方についてです。「弁護士は正義の味方だと思ってらっしゃるんですけど、それは違います。依頼者の利益を最大に考えるのが弁護士ですから、おかしなことを言うなと思っても自分がその立場で一番利益になることだと思えばきっと同じことを言うと思います。

そういう仕事だということをぜひわかっていただきたい」と現在なら当たり前のことですが、当時、これほどはっきり言われたのは私の知る限り橋下さんが初めてだったと思います。


 弁護士の固定観念を崩し、普通の言葉で端的にバサッと斬る姿にスッキリした視聴者が多かった。芸人の世界も同じで、お客さんにわかるように話さなければ、オチで爆笑をとれません。さらに、関西人ならではで人に突っ込ませる“スキ”をつくるのもうまいので番組が盛り上がる。


 何度かご一緒している時に新大阪駅の構内でお見かけしたことがありました。声をかけたら人目を引くので躊躇していると、橋下さんの方から「どうもいつもお世話になっています!」と声をかけてくださったので、切れたままでお渡ししていなかった名刺をこの機会にお渡しすると「頂いていませんでしたっけ、そういえばお名前を……」と苦笑され「本多さんですね。もう覚えました。漫才作家をされてるんですね。うわっすごいな!」と、ほんの数分でしたが、人目もはばからずいつものようにフランクに話をされていました。数日後「先日は失礼いたしました」という内容の手紙と名刺が届きました。


 番組では食リポにも挑戦していただき「これはウマイ!」「これ苦手なんです。ごめんなさい!」と表面的に繕うことをせずにありのままのリポートをされていたのも印象的でした。


 現在の主義主張には隔たりを感じることもありますが、それもまた橋下さん。これからのご活躍に注目したいと思います。


(本多正識/漫才作家)


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