6月13日に公開された松居大悟監督、池田エライザ主演の「リライト」は、タイムループ映画として注目の一本だ。タイムループとは、ある時間の流れを繰り返し、その時間の中から抜け出せなくなった人を描く作品。

最近では、事故で亡くなった夫を助けるため、松たか子演じるヒロインが夫と初めて出会った過去の瞬間に何度もタイムスリップして、自らタイムループの沼にハマっていく「ファーストキス 1ST KISS」が興行収入27億3000万円の大ヒットを記録した。


 本作は、そのタイムループ映画の集大成的な作品。日本のタイムループ映画は、筒井康隆の小説を原作に「タイム・トラベラー」(NHK、1972年)を最初として、これまで9回映画やテレビドラマ、アニメーションになってきた「時をかける少女」が源流にある。偶然タイムスリップできる能力を身につけた女子中学生と未来人との淡い恋を描いた。同作の頂点は大林宣彦監督、原田知世主演の1983年の映画版だろう。大林監督は作品の舞台を自分の故郷・尾道に設定し、ヒロインを女子高生に変えた。以降の同じ原作の映像化作品は、やはり女子高生が主役で地方都市が舞台になったものが多くなった。


 そして今回の「リライト」、法条遥の原作は舞台が静岡だが、映画は尾道に設定された。そして池田エライザ演じる女子高生が、同級生の未来人と恋に落ちていく。ヒロインがラベンダーの香りをかいでタイムスリップする能力を得るのも「時をかける少女」と同じで、キャストには尾美としのりや石田ひかりといった大林宣彦映画の常連俳優も出演。まさにオマージュを捧げる作りになっている。中盤、女子高生と未来人が別れるところまでは、83年版の「時をかける少女」を追体験している印象を受ける。


 しかし映画は、ここで終わらないのが劇団ヨーロッパ企画の上田誠脚本。彼はこれまで、壊れたエアコンのリモコンを直すため、高校生たちがタイムスリップを繰り返す「サマータイムマシン・ブルース」(05年)の脚本や、ある旅館を舞台に2分間だけ時が逆戻りするタイムループ映画「リバー、流れないでよ」(23年)など“時をかける”題材をいくつも手掛けてきた。本作では、その彼が大林宣彦作品に寄り添い、後半では自分の世界観を引き寄せて脚本を書いている。


 というのも上田誠の作品は、コメディー色が強いのが特徴。後半に、未来人との思い出を題材にして10年後、作家になったヒロインが描かれる。実は未来人が過去に来た目的は、その小説の作者を捜すことだった。小説の作者がヒロインであればここで映画は終わりなのだが、そうは問屋が卸さない。ここから本当のタイムループ映画が始まっていくのだ。


 いったい誰が何の目的でループするのかはネタばらしになるので書けないが、タイムループの回数では数ある映画の中でも記録的。また前半の高校生のラブロマンスをひっくり返すような展開を繰り返し描くことで沸き起こる、上田誠ならではの笑いの世界が待っている。


 大林宣彦×上田誠という、日本のタイムループ映画の2大クリエーターの世界が、ひとつの作品に融合した快感が「リライト」の妙味。ぜひ「時をかける少女」が好きだった人たちにも、作品の面白さを味わって欲しい。

 


(金澤誠/映画ライター)


  ◇  ◇  ◇


 昨年から映画界で快進撃を続ける池田エライザ。関連記事【もっと読む】池田エライザ「海に眠るダイヤモンド」女優を輝かせる“塚原あゆ子マジック”でトップ女優の仲間入りへ…では、本人のとんとん拍子の出世について伝えている。


編集部おすすめ