中国にとって今年は「抗日戦争勝利80年」に当たる節目の年で、さまざまなイベントが開催されているが、映画として大きく注目されたのが「南京写真館」と「731」である。
1937年に起こった日本軍の南京大虐殺を背景に、南京の写真館に集まった人々が、日本兵の残虐行為を写したネガを後世に残そうとする「南京写真館」は、現地で人間ドラマとして好意的に受け取られ、7月25日の公開から9月末までに30億元(約600億円)の興行収入を上げる大ヒットになっている。
もう1本の「731」は、当初7月末に公開予定だったが、94年前に満州事変の発端となった柳条湖事件が起こった、9月18日に公開を延期。この日は昨年、広東省深圳で中国人の男性に日本人の男子児童が刺殺されるという事件が発生し、反日感情が高まりを見せる日でもある。「731」は第2次世界大戦中満州に存在した、日本軍の細菌戦研究をする731部隊(初代隊長・石井四郎の名前をとって、石井部隊とも呼ばれる)を描いたもの。その研究施設では「マルタ」と呼ばれる中国人、朝鮮人、ロシア人、モンゴル人の捕虜たちが、細菌感染実験や凍傷実験、失血実験の被験者となり、約3000人が実験で殺害されたとされる。しかしその実態は、戦後にロシア軍の捕虜になった731部隊隊員が証言したハバロフスク裁判や、作家・森村誠一が部隊の実像に迫ろうとして、1981年から発表した著作「悪魔の飽食」シリーズによって知られることになったが、まだまだ不明なことは多い。
映画「731」では部隊の研究施設から脱走しようとする、捕虜の中国人男性を主人公にしている。凄惨な人体実験の模様が描かれる一方で、捕虜のいる施設内を花魁道中が歩くとか、刑務官が和服を着ている、日本兵が鉢巻きをしているなど、当時の日本に対する認識不足の描写も多い。それもあってか公開初日近辺は好調に収益を伸ばしたが、SNSで酷評が次々に出てきたことで失速。とは言え、9月末までに約15億元(約313億円)の興行収入を上げたというから、ヒット作であることは間違いない。
中国では2010年代に流行した、極悪非道な日本の軍人や政治家が登場する、粗悪な「抗日ドラマ」を彷彿とさせるという論評もあるようだが、「731」の趙林山監督はこれが監督2作目で、最初の作品は10年以上前というからちょうど「抗日ドラマ」のムーブメントが起こった時期に当てはまる。言ってみればこの監督にとって、「抗日ドラマ」を作る題材の一つでしかなかったのかもしれない。
総じて今回の映画は、主人公のサスペンス逃亡劇と日本人のパロディーとして中国で受け止められたようだが、今から40年近く前、初めて731部隊を描いた香港映画「黒い太陽七三一 戦慄!石井七三一細菌部隊の全貌」(1988年)は、人体実験のリアルな描写がスプラッターホラーをイメージさせ、以後は続編が2本作られたが、どちらもホラーに寄せた作りになっていった。
731部隊のことは、日本人には後ろめたさが付きまとう歴史の暗部である。だからこそ逆に、他国の製作であってもきちんと描いてもらいたいという思いがある。ニュースで映画「731」を見た後、中国人の子どもが日本のヒーローのおもちゃを投げ捨てる映像が流れたが、デフォルメされた劇中の表現をうのみにしてしまう中国人もいるのだから。
とはいえ、731部隊のことを真正面から描いた日本映画が今までないことも事実。この題材とどう向き合うべきなのか、加害者、被害者の両方の国で、映画人が考える時期に来ているのではないか?
(金澤誠/映画ライター)
◇ ◇ ◇
金澤誠氏の映画記事ついては、関連記事【もっと読む】中国映画「731」はサスペンス逃亡劇と日本人のパロディーで終わるのか…も合わせて読みたい。

![【Amazon.co.jp限定】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 豪華版Blu-ray(描き下ろしアクリルジオラマスタンド&描き下ろしマイクロファイバーミニハンカチ&メーカー特典:谷田部透湖描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)付) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Y3-bul73L._SL500_.jpg)
![【Amazon.co.jp限定】ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~ *Blu-ray(特典:主要キャストL判ブロマイド10枚セット *Amazon限定絵柄) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Nen9ZSvML._SL500_.jpg)




![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)


