「恋のから騒ぎ」「踊る!さんま御殿!!」などを手掛けてきた元日本テレビプロデューサーの吉川圭三氏(68)が17日、「人間・明石家さんま」(新潮社)を上梓した。明石家さんまと共にヒット番組を連発、年末年始は家族でオーストラリアのさんま邸で過ごす吉川氏しか知らないさんまの素顔について聞いた。


 ──さんまといえばインタビューはほぼなく、自叙伝の類いはゼロという稀有な存在だ。


「さんまさんはひたすらしゃべり、共演者と空気を作り出す芸人だから、インタビューというフィルターを通して論じられることを好まないんです。難しく言うと音声言語による表現にこだわり、活字で自分が表現される事にほとんど興味がない。そのせいかテレビで見たままの明るく軽い芸人かと思う方も多い。ですが、バラエティー番組などで息の長いたけしさん、所さん同様、実は高いインテリジェンスの持ち主で、人間的な深みのある器の大きな方です。そこで、私が実際にそばにいて体験したエピソードを積み上げることでもっと皆さんに知っていただけるんじゃないかと考えました」


■“さんま”というパワーワードを使うために見出したのが“若手イジリ”なんでしょう


 ──最近は、お笑い怪獣・さんまにイジられるのを恐れる若手が話題に。


「ネットではテレビを叩くことでPV数を稼いだり、テレビに出ている有名人を叩くことによって注目させるという手法が増えていますね。“さんま”というパワーワードを使うために見いだしたのが“若手イジリ”なんでしょう。でも出演者からすればさんまさんは必ずその人の新しくて面白いところを引き出すので感謝しかないと思いますよ」



「吉川君はハニートラップやなくてファミリートラップやから、家族で攻めてくる」って言われてまして

 ──本人の原稿チェックはナシ。吉川氏は全幅の信頼を置かれる存在だ。


「日刊ゲンダイで連載する際も、出版の際にもお伺いを立てましたが『吉川君の本やから』と結局一度も見ませんでした。番組や新しい企画を提案する場合もですが、内容はともかく人でOKすることは多いですね」


 ──吉川氏のオトボケキャラも距離を縮めたきっかけになっている。


「そう、初めて出会った頃に、中学時代ボウリングやってました、って前フリして、マイボールにグローブはめて自信満々で登場したのにド下手で。さんまさんが笑い転げたのが逆に親しくなるきっかけになりました。今は『吉川君はハニートラップやなくてファミリートラップやから、家族で攻めてくる』って言われてまして。ウチの娘を弟子にしたいと言われるほど気に入ってもらっています。もちろん笑いの仕事の現場に入ると“鬼”になるので、丁重にお断りましたが(笑)」


 ──さんま式新番組の選定基準もあるそうで。


「前例のないことは好感触。逆に前に誰かがやったことのある内容は断る。その中で、視聴者、自分ができる事、共演者の考え、制作側の意図、世の中の流れ、すべてを丸く収めるのはすごいと思います。だから木村拓哉さんも慕っているのだと思います」


 ──キムタクが師匠のように慕っているのも有名な話だ。


「きっと仕事や芸に対する妥協を許さない姿勢とその生き方に魅せられて、自分の師匠的な存在にしようと考えたのでしょう。最近、問題を起こして報じられている人は師匠のいない人たちが多い。おそらく畏れる存在がいないので自分が見えなくなるんじゃないかと僕は思います。

さんまさんを含め、皆さん道を外さないのは良き師匠がいたから。だから木村さんも道を間違うことがないのでは」


 ──本書に書いていないエピソードをひとつ挙げるとしたら。


「そうですね。年末年始のオーストラリア旅行に行く際、さんまさんの寝顔を見たこととか。正月特番など全収録を終えて極限状態で飛行機に飛び乗るわけです。『ほぉ。ホンマか?? それはオモロイ……』いつしか相づちがなくなり、寝落ちしていました」


 ──誰よりも眠らないさんまの寝顔とは?


「オーストラリアでも皆が耐えられなくなるくらい眠らないので、身内以外で寝顔を見たのは僕だけでしょうね。スイッチの切れたさんまさんはまるで“暑さでぐったりとしたひな鳥”みたいにちょっと“貧相”で(笑)」


 ──エピソードはまだまだ書ききれない。


「でもこの本を書いている時はさんまさんが近くにいる感じでとても楽しかったですし、僕もさんまさんの番組をやっている間は毎週のようにさんまさんと接することでパワーをもらっていました。書き上げてみて、さんまさんが占めていた大きさを痛感すると同時に、明石家さんまという前代未聞の大きな存在を一応記録に残せた事には心から感謝しています」


(構成・文=岩渕景子/日刊ゲンダイ)


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