【増田俊也 口述クロニクル】#65


 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 


増田「感性のアーティストでありたい、感覚のアーティストでありたいという気持ちがやはり強いんですか」


加納「そう、観念的と言われようが本当に自分の奥底にあるやりたいものをやりたい。撮りたいものを撮りたい」


増田「写真というのはまさに自分の感性で瞬間的に時間を止めるわけですよね」


加納「うん」


増田「だから、今のこのスピードばかりでせわしくなった時代を典明さんの写真の感性で止めてほしいと僕は思いますね」


加納「そうだね。みんなに立ち止まって、もう1回考えてもらいたい。芸術とは何かとか、あるいは生きること自体を感じられるような仕事をしていきたいね」


増田「僕は写真は撮れないですけど、そこはやはりすごく影響受ける言葉ですね」


加納「俺も増田さんに自分の考えを吐露していて、やっぱり小説家ですからジャンルが違って、見習うところというか、考え方とか新鮮なこと、あるいは全然違うじゃんかと思ったけど同じなんだとか、そういう気づきっていうのがすごく楽しいっていうのが、なかなか感動、感激ですね」


増田「これからの典明さんのアートの中心というと、やはりカメラと絵筆両方を持って」


加納「はい。他にもやることがデジタルをやってて浮かんでくるかもしれないですからね」


増田「アニメーションはどうですか」



パワー、意志、自意識

加納「アニメはじつは俺は好きじゃないんですよ。俺がもしアクセスしていくとすると、アニメじゃなくてアニメを超えるものなんだろうなって、何か出てこないかなと内心思ってるんですよね。いずれパッと瞬間にそれが形になっていくことがあり得ると思います。何か新しいもの、メディアとしての技術的な部分も含めて創造していきたいですね。できたら」


増田「今パソコンあるから写真を動かすとかそういうのもできてるんでしょうね、もうすでに」


加納「AIで人造人間、人間なんか作るのはそう難しいことじゃないですよね。だからどこまでが現実で、どこからが非現実なんだということなんかが、どんどんいろんな事件も含めて出てくると思うんですよね。そういう中で何か創造するものができてったらいいなと俺は思う」


増田「83歳とは思えない先進的な考えですね」


加納「年齢は関係ないと思うな。

最先端に挑戦していきたい」


増田「まだまだこれから挑戦が続くと」


加納「生きるってことは一生挑戦だと思ってますから。自己への挑戦。そういうパワーというか、意志というか、自意識があるうちはやるだけのことはやろうと思ってます」


増田「例えば文芸誌から依頼があっても?」


加納「もちろんやりますよ」


増田「小説でもやりますか」


加納「小説でもエッセイでも。どちらも書いたことはありますし、それよりさらに新しいものを書きたい。今までの小説というものの形態を取らない小説に挑戦したいですね」


増田「進化を止めないと」


加納「止めるつもりもないし、止まるつもりも全くないですね。生きているかぎり俺は走り続けたい」


(第66回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。

小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


編集部おすすめ