【増田俊也 口述クロニクル】#69


 作家・増田俊也氏による連載。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「では、前回が、中年に向けてだったんで、若者に向けての激励をお願いできますか」


加納「俺の背骨というか中心にあるのは『今まで自分とどれだけ喧嘩してきたか』ということなんですね。だから自己へのチャレンジ、セルフチャレンジというんですか。そういうものの量と密度というんですか、それが果たして自分が思ってたようにやったのかなという反省があります」


増田「典明さんでもあるんですか?」


加納「ありますね。『どっかで何か残してしまった』っていう感覚は誰でもあるでしょうけど、俺の場合は表現者だからもっと強烈なものです。自分が今まで自分に挑戦しなかった、結果を出さなかったということに対する悔恨がやっぱりありますね」


増田「そういったものを残さないように若者には思いきり生きてほしいと」


加納「そうですね。かといって人生そんなうまくいくわけじゃないから、いろんな関わりの中で生きているわけだからね。でもなるべく一つ一つ事に当たる時の姿勢というんですか、事に当たる時、当たった時のまず第一に自分との喧嘩というか、自分との闘いというか、自己確立というか、それがまず必要だと思う。それなしに話をしちゃったり、対処しちゃうと、人用の自分、世間用の自分、時代用の自分で消化されて、溶けて消えてしまう」


増田「なるほど」


加納「どんな若者でも『俺自身が生きてる意味、生まれた意味はどこにあるんだ』と思っている。結局のところ自己確立ということに立ち返ってくる。つまり若いときはまだいいけども、振り返る年齢になったとき、生きるという戦いの中で何をしてきたか、どう戦ったのかということになるんだ」


増田「時代の流れのなかで」


加納「そう。急流に流されてそれでOKしちゃう部分があるかもしれないけど、そういう潮に流されるというか、時代に流されるというか、それに抵抗してほしい。

時代に流されてるだけではその人間の名前とか持って生まれたものとか、その辺のこと、意味がなくなってしまうから」


増田「時代に抗い、時代に挑戦しろと」



自己錬磨の実践を怠るな

加納「その通りです。時代と戦うことはつまり自分との戦いです。ですから、極論して絞れば、自分とどれだけケンカをしたのか。己、自分、自己、いろんな言い方があるけども、自己錬磨、自己研磨、そういったことをどこまで実践できるかということが大切です。若い人は常にそれを意識してほしい」


増田「典明さんと話していると、自分との喧嘩、時代との喧嘩という言葉がよく出てきます」


加納「俺の場合、若いときその時点その時点で意識していたわけではないけども、のちのち考えてみれば、すべてそれをやってきたと思う。だからその言葉に収斂されると思う。若者が何者かになろうとするならば、やっぱり自分との喧嘩、時代との喧嘩は必須ですね。それが無ければ伸びないよ」


増田「常に自己練磨を怠るなと。それには以前お話された就寝前の禅のような思索も大切ですね」


加納「そう。実践と思索は2つで1つなんだ。どちらかひとつだと完成していかない。だから若者にはとことん考え抜いてほしいし、とことん実践してほしい」


増田「20歳、25歳から意識しておいたほうがいいということですね」


加納「そう。

当然そういう意識があるとないでは、やっぱり結果が違ってくる。それはやってみればわかると思いますよ」


増田「それが若者たちへ一番言いたいこと」


加納「そう。だから、まず自分と喧嘩をし、時代と喧嘩をしてほしい。それをもって世の全てに対処しないと、自分はいなかったことになるんじゃないかというくらいの危機感を抱いて生きてほしいですね」


(第70回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。

中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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