【増田俊也 口述クロニクル】


 作家・増田俊也氏による連載。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「いま日本は非常に混迷というか迷走していますけれども」


加納「日本という国は名前だけの国になって、どこまでが中国で、どこまでが台湾で、どこまでがアメリカでというようなことがわかりづらくなってきた」


増田「そうですね」


加納「本来、日本人が持つ『日本人たれ』みたいなことは俺はあんまり言いたくないし、右翼的な意味でも持ちたくはない。でも、日本人の心の根底、精神の根本、あるいは日本人というものの記憶というのは大切にすべきだと思う。それがもたらす実体というのかな、現実というのかな、これからの我々はそれとどれだけ関わっていけるのか」


増田「なるほど」


加納「デジタルの時代で、今やもう世の中混沌としてしまってる。だからいろんな意味でいろんな物の輪郭が見えなくなってきてる。で、やっぱり日本は日本らしさっていうので一体化しているんだということを、個人だけじゃなくて、団体も含めて年代も超えて、やっぱり胸に剣を当てて生きるべきじゃないかな」


増田「それくらい向き合うべきことであり、考え抜くことでもあると」



“愚かなる中国”を利用しているだけ

加納「だからといって日本を変な形で独立させるのは意味ないから、せいぜい時代とやりあって、他国とやりあって、トレンドとやりあって、どれだけそこに日本的なものを残せるのかということだよ」


増田「日本的なものというとき、それが何を指すのかも曖昧な時代になってきました。歴史的に見るとまずは欧州に浸食されアメリカに浸食され、いまはアジアからも浸食されています」


加納「だから意味が非常に微妙で、そこが肝心だけれども、あんまりそこにこだわると変な日本になってしまう。だから日本売りというか、日本、日本というのもいいけれど、そういう総体の中で自然に湧き出て、自然に固まっていく。新しいその日本論というか、日本のイマージュというか、そういうものをやっぱり作っていくべきで、それはみんなで意識しないとそうならない。人と絡むにしても団体と絡むにしても、そういうことを意識して、建設的になってた方がいいんじゃないかと思いますね」


増田「首相の高市早苗さんについてはどう思われますか」


加納「女性であるということで、今は人気もあるようだけども、その辺にこうまだ流されている感じじゃないですかね。高市さんもまだまだ本気は見えないし、今回の中国との軋轢だって、もう完全に愚かなる中国という、それを利用しているだけの話だと思う。そんなものに流されず、高市は高市で、日本をこう見せる、彼女で思想する、彼女の考える日本をどんどん打ち出していっていいと思いますね」


増田「彼女ならできそうですけどね」


加納「うん。

そこで『おい高市、そんな日本古いだろう』とか『高市、それは今時そんなやり方なんか世界に通用するわけないだろう』と言われてもいいから、彼女は彼女のやり方をもっと前面に出して。遠慮することはない。選ばれたんだから」


増田「はい」


加納「みんなを幸せにすればいい、国を豊かにすりゃいいという、そういう単純なことだけじゃなく、それを超えた日本っていうのは一体何なんだろうということを、例えば国民全体に彼女が振ってもいい。『国民のみんなよどう思う』と問うてもいいし、『皆さん、日本をどう変えたいんだ』と問うてもいい。それを一つの政策として出して、一つの答えというか総体としての返事というのを考えてもいいんじゃないかと思うね」


(第71回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。

北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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