12月は京都・南座で菊五郎・菊之助の襲名披露に、仁左衛門、愛之助、鴈治郎をはじめ幸四郎、勘九郎、七之助などが出ている。盛況だったが、菊五郎の出番が昼は『鷺娘』、夜は『弁天娘女男白浪』だけなのがさみしい。

『弁天娘』もいつもの菊五郎劇団の座組ではないので、ノリが悪いように感じた。勘九郎の『俊寛』は若いイメージで、それゆえの未来への絶望を、絶叫調ではない方法で示し、かえって胸を打たれた。


 役者の多くが京都へ行ったので、東京は玉三郎、獅童、松緑がそれぞれ主役。全体に「普通の歌舞伎」ではないものが多い。


 第一部は獅童と初音ミクによる「超歌舞伎」。バーチャルキャラクターとの共演も、10年前に始めた時は最新技術だったとしても、いまは珍しくもない。初音ミクは舞台奥にある巨大モニターの中でしか動かないので、物足りなく思えてしまう。2時間にわたり、立ち回りと舞踊が交互に続くだけでドラマとしての面白さがないのが致命的。平日だったせいもあるだろうが、このところ満席続きだった歌舞伎座が、久しぶりに空席が目立つ。


 ペンライトを持っている人も3階席は数えるほどだった。こういうものは、歌舞伎座の客には求められていないのでは。


 第二部の松緑の『丸橋忠弥』は、前半のドラマ部分はいいが、後半の立ち回りが長過ぎる。

最初は迫力があるなと見ていたが、しまいに飽きてしまった。


 獅童の『芝浜革財布』は落語が原作。前半と後半で人格が変わるのを意識して、コントラストをつけるためなのだろうが、前半が粗野過ぎて、なぜ妻がこの人のためにそこまでやるのかが伝わらない。


 第三部は玉三郎による染五郎育成プロジェクトで、まずは『与話情浮名横櫛』。「源氏店」の場のみだが、玉三郎の若さが驚異的で、50歳以上も年下の染五郎と、カップルに見える。とはいえ、お富のほうが年上の感じになってしまうが、これは仕方がない。


 8月に上演された新作『火の鳥』が早くも再演となった。よほど気に入っているのか、気に入らないところがあったので直したかったのか。配役は玉三郎と染五郎は同じだが、大王が幸四郎から中車、ウミヒコが團子から左近へと交代。


 大王は傲慢で権力欲が強いが、それゆえに弱さもあるが、中車はその弱さをうまく出している。染五郎と左近は、兄と弟として身長のバランスがとれている。中盤の、映像を駆使しての、二人が火の鳥を求めて旅するシーンが素晴らしい。

舞台で映像を使う例が多くなったが、この芝居では、背景である映像と染五郎たちが見事に融合している。最新映像技術はこう使えというお手本になる演出だ。


(中川右介/作家)


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