【碓井広義 テレビ 見るべきものは!!】


 とんでもないドラマが登場した。13日に始まった、放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK、全3話)だ。


 物語の舞台は100年後。40年続いた火星移住が見直され、地球への帰還が始まる。リリ-E1102(スリ・リン)も、母タキマ(宮沢りえ)や恋人アオト(菅田将暉)が待つ地球に向かおうとしていた。だが、帰還反対派に拉致されてしまう。タキマが移住管理組織の日本支局長だからだ。


 さらに火星では、科学者カワナベ(吉岡秀隆)が超常現象を引き起こす「謎の物質」を発見していた。プルトニウムを超えるエネルギー源となり得る超重元素である。


 本作にはいくつもの「隠喩」が潜んでいる。地球出身者が火星社会で優位に立ち、火星生まれの人々が抑圧される構造は、歴史的な植民地支配や現代のグローバル資本主義の縮図に映る。「未来社会でも格差や差別は消えない」という寓話なのかもしれない。


 また「謎の物質」が引き起こす超常現象はAIや量子技術、さらには地球環境そのものの暴走を思わせる。その「制御不能な力」は人類にとって希望なのか脅威なのか。


 このSFドラマ、スケールといい映像の完成度といい、ふとNetflixを視聴しているかのような錯覚に陥る。まずはその本格派ぶりを堪能したい。原作は小川哲。脚本は「17才の帝国」(同)などの吉田玲子だ。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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