【私の人生を変えた一曲】


 堤博明さん
 (作曲家・ギタリスト/40歳)


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 今春まで放送されたNHK連続テレビ小説「おむすび」(橋本環奈主演)はB'zのテーマ曲が話題になったが、ドラマを彩る劇伴も好評だった。その音楽を担当したのが作曲家でギタリストの堤博明さん。

国立音楽大学在学中からの仲間とのユニット「Shikinami(シキナミ)」でも精力的に活動しており、インストゥルメンタルの楽曲制作をする印象が強いが、音楽の道を志すきっかけになったのはGLAYと久石譲の存在だった。


「おむすび」が放送されたのは2024年の9月末から今年3月末までですが、僕にとって特別な半年間でした。毎朝放送される番組ということもあり、親族や友人からの反響も多かったのですが、特に喜んでくれたのは祖母です。家族が喜んでくれたことがとてもうれしかったです。毎朝、孫の名前が出てくるのがうれしかったみたいです。


 幼稚園の時からピアノを習い始めたのですが、長くは続かなくて小学校低学年の頃にやめてしまいました。それからブランクがあって14歳で始めたのがエレキギターです。中学では野球部に入っていたのですが、部員の中でギターブームが起きました。


 友達の話についていきたくて始めたギターですが、だんだんとのめり込んでいきました。


 ギターをよりうまく弾くために音楽教室にも通いました。純粋に楽しいし、さまざまなことを吸収しやすい時期だったので上達するのも早かったと思います。そして14歳で「将来ギターのプロになる」と決めて、両親にも言いました。

今思えば無謀な話ですけど(笑)。


 GLAYの曲で最初に弾いたのは1997年にリリースされた「HOWEVER」です。早速そのスコアを買って練習しました。曲全体を弾けるようになるまで2カ月ほどかかりました。


 次にトライした曲は98年にリリースされた「誘惑」です。その頃「BANDやろうぜ」という雑誌がありました。その中に「絶対弾ける『誘惑』」という特集があって、そのキャッチコピーに背中を押されましたね。自分にとって難易度が高かったのですが、なんとか弾けるようになりました。


 ギターを始める前はテレビゲームに夢中でした。RPGの、経験値をためてキャラクターが成長していく感覚がとても好きだったのですが、ギターと出会ったことで成長をさせていく対象が自分自身になりました。当たり前のことなのですが、その感覚が当時の自分にとってすごく新鮮で刺激的で、音楽にのめり込む大きな要素のひとつになりました。



■9月公開の映画「ひゃくえむ。」ではTOSHI NAGAIがドラムを

 現在、音楽が仕事になってからもライブに参加するなどGLAYの活動を追いかけているのですが、9月19日に公開された映画「ひゃくえむ。」の音楽を担当した際に、長年GLAYのビートを作られているドラムのTOSHI NAGAIさんに思い切って演奏の依頼をさせていただきました。

突然のオファーにもかかわらず快く引き受けてくださり、感謝しかありません。自身の曲に、長い間憧れ続けている音色が入るなんて夢のような経験でしたし、音楽を続けてきてよかったと心から思えた瞬間でした。


 GLAYでとくに思い入れが強い楽曲は「HOWEVER」、アルバム表題曲の「pure soul(ピュア・ソウル)」とアルバム「BELOVED(ビーラブド)」に収録されている「都忘れ」です。「都忘れ」は中学時代、ギター友達と一緒に歌詞を分析していたという、特別な思い出があります。


 その頃から将来プロになると決心していたので、練習時間をできるだけ確保できるように自宅から一番近い高校に進学しました。大学は家族の理解もあり、国立音楽大学に進学することができました。音大に入学するのは、基本的にピアノを弾くことができ、絶対音感を持っているような人たちばかりです。絶対音感を持っておらず、ピアノも上手ではない僕にはカルチャーショックでしたね。僕が中高時代に触れてきた音楽はロックやメタル、フュージョンだったので、クラシックの素養がある同級生たちとは感覚が違い、その点も衝撃的でした。


 そんな中、同じ授業やサークル活動を通してバイオリンの白須今、ピアノの野口明生と出会い、ジャンルにとらわれない音楽性を持っている2人と意気投合してShikinamiを結成しました。


 Shikinamiの演奏活動では車で遠出することも多かったのですが、その道中にメンバーの2人がクラシックやサウンドトラックなど自分が知らなかった音楽や映画の話をたくさんしてくれてとても学ぶことが多く、自分の音楽性の幅を広げるきっかけにもなりました。


 その話題の中心になることがとくに多かったのは、国立音楽大学の大先輩でもある作曲家の久石譲さんでした。

僕にとっても、もうひとつのルーツとなる音楽を作り出してくださった方で作曲を生業としている今だからこそ、その偉大さをより感じています。



■僕にとっての音楽のルーツ

 自分がまだ4歳くらいの頃、NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体」(89年)が大好きで、録画したものを繰り返し夢中で見ていました。


 映像と音楽の組み合わせが幼心にとても面白く感じていたのですが、生命の神秘性と久石譲さんの番組テーマ曲「THE INNERS~遥かなる時間の彼方へ~」が合わさる瞬間には特別な感情があふれ自然と涙がこぼれていたのを今でも覚えています。


 映像の持つメッセージを無限に広げるような音楽の力を、無条件に感じることができた瞬間でした。今につながるその大切な原体験を思い出すたびに、「作曲」を仕事にできていることへの誇りや意義を強く感じます。


「THE INNERS~遥かなる時間の彼方へ~」という楽曲は、まさに人生を変えたお守りのような一曲です。


 GLAYの皆さん、久石譲さんからもらった音楽のルーツをこれからも育て続け、自分にしかできない音楽表現を探しながら、これからも挑戦と努力を続けていきたいです。 


(聞き手=峯田淳)


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