【1975 ~そのときニューミュージックが生まれた】


 スージー鈴木が選ぶ1975年レコード大賞③


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 スージー鈴木が(今さら・勝手に)選ぶ1975年レコード大賞。今回はいよいよ「最優秀新人賞」「最優秀歌唱賞」そして「レコード大賞」の発表です!


 まず「最優秀新人賞」は文句なし、岩崎宏美「ロマンス」に。


 本物の75年レコード大賞で「最優秀新人賞」には、激戦の結果、細川たかし「心のこり」が選ばれたのだが、半世紀経った今、楽曲としてのすごみに、大きな差があることに気付く。


 何といっても「ロマンス」は、70年代ソロアイドル楽曲の中で、もっとも売れたものなのだ。あの新御三家や花の中3トリオも「ロマンス」を超えるヒットを生み出せなかったのだ。


 連載では、「ロマンス」の魅力について、さまざまな視点から書いてきたが、けれど、とどのつまり、この曲は岩崎宏美の天衣無縫な声に尽きる。


 そういえば岩崎宏美、今年の紅白歌合戦に出場するではないか。スージー鈴木が選んだ半世紀後の最優秀新人賞として、「1975年組」のすごみを全国に見せつけてほしいと思う。


「最優秀歌唱賞」は本物の75年レコード大賞と同じく五木ひろし「千曲川」で。授賞理由は、楽曲としてのスケール感と、五木ひろしの歌唱力のスケール感との合致だ。この曲の魅力は、当時まったく分からなかったが、50歳を越えて、いきなりグッと来た。今では名曲・名唱として推しに推したい。


 同時期に、伊藤咲子「乙女のワルツ」という、ちょっと似た曲(音階がペンタトニックでリズムが3拍子)がリリースされたが、五木ひろしの貫禄勝ちだった。決まり手は「スケール感」。


 そしていよいよレコード大賞。「ロマンス」「千曲川」、そしてイルカ「なごり雪」などと悩んだのだが、太田裕美「木綿のハンカチーフ」でどうだろう。


 75年における歌謡曲とニューミュージックの見事なマリアージュという点に加えて、現代における知名度で判断した。つまりは楽曲としての生命力である。


「半世紀後の日本でも親しまれている」なんて、当時言ったとしても作詞の松本隆も、作曲の筒美京平も、当の太田裕美も、誰一人信じなかったのではないか。


 太田裕美さん、おめでとうございます。喜びの涙を拭く木綿のハンカチーフ要りませんか?


 あっ、1つ書き忘れていた。75年の「最優秀新メディア賞」は、この年に創刊した日刊ゲンダイに。こちらも半世紀後の日本でも親しまれている。特にこの連載が。


■いよいよ最終回間近!半年以上に及ぶ連載へのご愛顧と感謝を込めて、スージー鈴木が動画で実演解説する「1975年あたりのユーミン コード革命


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▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。

在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月に発売予定。ラジオDJとしても活躍中。


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