高市政権が進めようとしている旧姓の通称使用の法制化。政府は来年の通常国会に法案を提出する方向で調整しているが、「法律面」でも議論が混乱してきた。


 夫婦の氏については、1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申している。それが長年たなざらしとなっていて、今年の通常国会で28年ぶりにようやく、野党が法案提出する形で民法改正の審議が始まった。


 ところが高市政権が発足すると、高市首相は持論である「旧姓使用の法制化」をゴリ押し。日本維新の会も同様の考えで、連立合意文書に「旧姓の通称使用の法制化法案を通常国会に提出し、成立を目指す」との一文が盛り込まれた。


 しかし、これが成立すると別姓実現が遠のく恐れがあるうえ、別姓を望む人たちにとって根本的な解決にはならず、別姓推進派は問題視。18日に衆院法務委員会の閉会中審査が行われ、政府が過去に「旧姓の法制化は政府の方針として考えていない」と国会答弁していたこともあり、委員会は大モメとなった。


■木原官房長官「民法改正を前提にせず」


 過去の答申と異なる法整備を行うのであれば、法制審議会に再諮問が必要ではないか、という疑問も持ち上がっているのだが、平口法相に続き、22日、木原官房長官(写真)も「諮問が再度必要になるとは考えていない」との見解を示し、理由としてこう発言した。


「法制化には制度の具体的な在り方としてさまざまな考え方があり得る。必ずしも民法上の制度見直しを前提にするものではない」


 旧姓使用を法制化するけれど、夫婦の氏について定めた民法は改正しない。そんなこと可能なのか、意味が分からない。憲法学者で慶大名誉教授の小林節氏はこう言う。


「民法を改正せず、民法については解釈を変えて、政令でという手法を取るのでしょうか。

しかしそれは、行政権が立法権を超える。権限の逸脱です。首相や官房長官は国会議員であり、立法府の方々がそれをやってはいけない」


 高市首相は今年1月に「旧姓使用の法制化」の私案をまとめている。住民票に旧姓を記載する制度を「新法」に明記し、通称として使用できるようにするというもの。その上で、国や地方自治体、事業者は、旧姓を使用できるよう必要な措置を講じるよう努めると規定している。


 この私案を政府提出法案にするつもりか。


「本来なら、民法の一部改正として該当条文を書き直すべきものです。改正しないで、別の新法を作るということは、実質的に民法の否定になる。法制審議会は何のためにあるのか。法制審をもう一度通さなければおかしい。いずれにしても、混乱を招くのは間違いありません」(小林節氏)


 男女共同参画会議でも「旧姓使用の法制化」が審議を経ずに基本計画案に盛り込まれ大モメしている。高市政権、やり方が強引すぎる。


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