これは私の遺言である。
私は1970年、講談社に入社以来、退職するまで、雑誌、それも主に週刊誌に携わってきた。
FRIDAY、週刊現代、Web現代の編集長を経験して退職。その後も、毎週多くの週刊誌を読み、それにまつわる雑文を書いて過ごしてきた。
私が週刊現代編集長を辞したのは1997年。雑誌も出版界全体の売り上げもピーク時であった。現代の新年合併号は130万~150万部をつくり、完売した。
しかし、それ以後、部数は減り続け、現在、トップの週刊文春でも実売は20万部をわずかに超える程度で、新潮は約10万部。現代やポストは月3回という変則刊行になってしまった。
私は、部数が往時の何分の1だから週刊誌の時代が終わった、とは思っていない。週刊誌の本当の危機は、別にあるからだ。
話は変わるが、週刊新潮が、朝日新聞記者2人を殺傷した赤報隊実行犯の手記という大誤報をした2009年春、私が呼びかけ「週刊誌が死んでもいいのか」というシンポジウムを上智大学で開いた。新潮を除く週刊誌編集長、田原総一朗、佐野眞一らが登壇し、大教室に入りきれないほどの人であふれた。新聞やテレビも取り上げ、YouTube、Twitterに動画や速記録がアップされた。
その際、田原、佐野がともに指摘したのは「往時は週刊誌の編集長や編集者は好奇心の塊だった。だが、最近では臆病になり、編集長に度胸がない」ということだった。
■日本一危険な編集長
私は田原から「日本一危険な編集長」という“称号”をもらったことがあった。度胸はなかったが好奇心は他の編集者の何倍かはあったと自負している。
シンポから16年が経ち、あの頃以上に週刊誌は“臨終”の危機を迎えている。だが世間の関心は極めて低い。「勝手に死ねば」というのが大方の感想であろう。
朝日新聞(12月18日付)のインタビューで、私の後輩で現在はフリー編集者の加藤晴之がこう語っている。
「週刊誌は厳しい時代ですね。人間が隠している本性や煩悩、欲望を描くのが得意でしたが、今やSNS全体が巨大な週刊誌と化し、お株を奪われてしまっているからです」
週刊誌など読まなくても、情報は瞬時に拡散し、消費されてしまう。時には、週刊誌が匿名にした被害者の実名や住所まで突き止め、SNS上にさらしてしまうこともある。
私は昔から、雑誌、特に週刊誌には「毒」がなければいけないといってきた。
しかし、はるかに大きな毒をまき散らす“凶暴”なSNSの前に、週刊誌はなす術もなくボー然と立ち尽くしているように思える。
それでも週刊誌が生きながらえる方策はあるのか? ある。それは原点に返ることである。
かつて丸山邦男は「週刊誌の今日に期待するものは、管理社会のなかで口や目を封じられているふんまんを、弱き者の味方となって自分たちの目の壁を破ることではないか」と述べた。松浦総三は「NHKや大新聞によって〈市民権も与えられないテーマに固執〉し、これに独自の調味料や薬味を加えることによってできたのが、ストリートジャーナリズム、すなわち出版社系週刊誌である」と書いた。
ストリートジャーナリズムは、私が現場にいた頃までは色濃く残っていた。「たかが週刊誌、されど週刊誌」とうそぶきながら、あちこちをほっつき歩き、ゴミ箱を漁ったり、どぶ川をさらったりしながら、ネタ集めをし、夜は、新宿2丁目やゴールデン街で、安酒をあおった。フリーの記者たちは「首輪のない猟犬」と言われ恐れられた。
死に損ないの老いぼれが世まい言を言いやがってと言われることは百も承知だ。だが、週刊誌の原点は「権力より反権力。強者より弱者。
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

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