「力によって国境を変更してはならない」──。ロシアのウクライナ侵攻を巡り、EUが何度も表明してきた言葉だ。

当然、日本政府も「力による現状変更」を認めていないが、トランプ米政権はその例外らしい。トランプ大統領のやりたい放題を黙認する日欧の弱腰は“ならず者国家”をつけ上がらせるだけだ。


 新年早々、トランプ大統領はベネズエラの首都カラカス進撃を断行。マドゥロ大統領の身柄を拘束し、麻薬密輸への関与や武器所持などの罪で米司法の場に引きずり出した。


 いくらマドゥロ大統領が正統性に疑義のある独裁者とはいえ、一国の首都を爆撃して国家元首をさらう権利は、どの国にもない。5日の国連安全保障理事会でも「合法的な法執行」と訴える米国と、違法性を指摘するベネズエラや中国、ロシアとの間で応酬となった。


 しかし、木原官房長官は6日の会見で、ベネズエラ攻撃そのものへの評価についてノーコメント。「国連憲章を含む国際法上の原則は尊重されなければならない」と言いながら、「わが国は直接の当事者ではなく、また詳細な事実関係を十分把握する立場にはない」として「法的評価を含め、コメントは差し控える」と繰り返した。


 こうした日和見主義は、米国の同盟国である欧州各国の首脳もしかりだ。ドイツは日本と同様、「法的な評価は複雑だ」(メルツ首相)として静観。フランスはバロ外相が「国際法の基盤である武力不行使の原則に違反している」と批判したかと思いきや、その後マクロン大統領が米国によるベネズエラの政権移行を追認した。イギリスのスターマー首相も攻撃への非難を避けている。



グリーンランドとの二重基準

 ところが、トランプ大統領がベネズエラ攻撃後にデンマーク領グリーンランドに関して「国家安全保障の観点から必要」と改めて領有への野心をのぞかせると、欧州各国は一斉に反発。「グリーンランドの未来はグリーンランドとデンマークだけで決めるべきだ」(スターマー首相)、「グリーンランドは欧州の領土だ」(バロ外相)など、ベネズエラ攻撃の“黙認”とは打って変わった態度である。


 元外交官の美根慶樹氏(平和外交研究所代表)が言う。


「スターマー氏が『マドゥロ政権の終焉に同情しない』と表明したのが象徴的です。要するに欧州は大前提として『マドゥロ政権に正統性はない』とみなしており、強引でも体制転換は致し方ないと考えている節がある。だから明確に米国を国際法違反と非難しない。一方、グリーンランドを含むデンマークはNATOの一員ですし、ましてや独裁国家でもないから黙ってはいられない。こうした二重基準では、中ロなど権威主義国家に対し、ますます国際秩序に基づく行動を促しづらくなる。だからこそ、日本政府には米国に『力による現状変更は認めない』という姿勢を明確に見せて欲しいものです」


 日欧の弱腰・ダブルスタンダード外交に、ベネズエラ攻撃を糾弾する中ロや北朝鮮はニンマリということ。国際秩序に真っ向から挑むトランプ政権もまた“ならず者”だ。


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 米トランプ大統領による南米ベネズエラへの攻撃については関連記事【もっと読む】『南米ベネズエラを攻撃した米トランプ大統領の狙いは「西半球支配の始まり」と専門家が分析』で詳報している。


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