トロント国際映画祭で国際観客賞を受賞。ゴールデングローブ賞のミュージカル/コメディー部門の作品賞、主演男優賞、非英語作品賞にノミネートされている注目作だ。

本作はコメディーの色彩が強いものの、その本質はブラックユーモア。荒唐無稽でややグロテスクな展開が続き、胸を打つラストになだれ込む。


「全てをかなえた」――。広い庭のある家で会社から贈られたウナギを焼きながら、マンス(イ・ビョンホン)は幸せの絶頂にあった。かたわらには社交ダンスが趣味の妻ミリ(ソン・イェジン)とチェロを練習する娘のリウォン、息子のシウォンがいる。マンスはシングルマザーのミリと出会い、再婚した。シウォンとは血がつながっていないものの関係は良好だ。


 ところが、この幸せな家族の光景が激変する。勤務先の製紙会社がリストラを開始。勤続25年のマンスまでが解雇の対象になったのだ。高卒で就職して通信大学で学位をとり、製紙業界の栄誉「今年のパルプマン賞」を受賞した有能な管理職にもかかわらず、クビを切られたのである。


 一家の主として、マンスは3カ月以内に再就職先を見つけることを決意。

だが3カ月後、彼はスーパーで品出しのバイトをしていた。後輩の紹介で製紙会社の面接を受けるも、緊張して失敗、退職金を取り崩す生活が続く。追い打ちをかけるように住宅ローンの督促状が届く。


 焦ったマンスは業績好調のムーン製紙に履歴書を持ち込むが、班長のソンチュルに冷たく扱われてしまう。しかし自分こそが彼のポジションにふさわしい人材だと確信するマンスの脳裏にある衝撃のアイデアがひらめく。それは「ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る」だった……。



男というのは追い詰められるとここまで理性を失うのか

 予告編のミリがマンスに「皆殺しにするの」とささやく場面からも分かるように、追い詰められた男がライバルを手にかけようとする物語だ。「たかが再就職くらいで」と笑ってしまうが、家族を守ることを最大の使命と考える男はそれなりの報酬を稼がなければならない。それが家長の責務と考えたとき、心の中にワイルドな策謀が発生して暴走。だから良心と闘いながらも悪辣な道に引きずり込まれる。男というのは追い詰められるとここまで理性を失うのかと呆れてしまう。


 一方、ミリは夫の焦燥に気づかない。

主人公夫妻のすれ違いという皮肉のかたわら、マンスが狙う男たちもそれぞれに苦心している。そうした登場人物たちの裏事情が面白い。本作を見ながら「男はつらいよなぁ」と呟いてしまった。シニカルな問題作といえるだろう。


 かくしてマンスはドタバタの陰謀劇を展開。終盤は息もつけないスピード感で観客を劇中に引き込み、ラストに至る。この結末こそがしあわせな選択なのだろうか。筆者はなぜか「ゴッドファーザー」(1972年)のラストを思い出した。夫マイケルを見つめるダイアン・キートンの表情がミリとダブって見えたのだ。本欄の読者はどんな印象を受けるだろうか。


(TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中/配給:キノフィルムズ)


(文=森田健司)


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