3月15日(現地時間)に結果が発表されるアメリカの第98回アカデミー賞。その長編アニメーション部門にはピクサー社の「星つなぎのエリオ」、ウォルトディズニー社の「ズートピア2」に加え、第83回ゴールデングローブ賞アニメ映画賞やアニー賞の長編作品賞など10部門を受賞した「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」、アニー賞の長編インディペンデント作品賞やアヌシー国際アニメーション映画祭の長編部門で最高賞のクリスタル賞を受賞した「ARCOアルコ」(日本公開は4月24日)などがノミネートされている。

下馬評では劇中歌「ゴールデン」が全米で大ヒットした、Netflix配給の「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」が大本命だが、ここではもう1本のノミネート作品、「アメリと雨の物語」(日本公開は3月20日)に注目したい。


 この作品はアヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を受賞していて、ゴールデングローブ賞のアニメ映画賞やアニー賞の長編作品部門で7部門にノミネートされた、フランス製のアニメーション映画である。神戸生まれの作家アメリ・ノートンの自伝的小説『チューブな形而上学』を原作に、マイリス・ヴァラードとリアン=チョー・ハンの監督コンビが、1960年代の神戸を舞台にベルギー人外交官一家の日本滞在記を、幼女アメリの視点から描いたものだ。


 日本で生まれた外交官の娘アメリは、自分を“神”だと信じて、魔法のような世界に生きる多感な女の子。彼女の一家はカシマさんという厳格な日本女性が大家をしている、広大な日本家屋の離れで暮らしている。アメリはこの家の家政婦に雇われたニシオさんに懐いて、彼女から日本の妖怪の話や自分の名前と語感が似ている「雨」という漢字を教わり、日本の文化に興味を持っていく。アメリにとっては日々の出来事がすべて冒険であり、新たな発見の連続。「となりのトトロ」(88)のメイを彷彿とさせる、好奇心の塊のようなアメリに魅せられる観客は多いはずだ。


 一方でカシマさんは戦争中の爆撃で家族を亡くしていて、外国人に優しく接するニシオさんにいい印象を持っていない。やがてアメリが大好きだったベルギー人のおばあちゃんが亡くなり、ニシオさんの家族も戦争で死んでいると知った彼女は、死者を弔う精霊流しをニシオさんと行い、人が死ぬということの意味を知っていく。戦争の記憶が残る60年代の日本人のメンタリティーも織り込みながら、アメリの成長をみずみずしいタッチで描いた作品だ。


 フランスでは近年、夢枕獏・作、谷口ジロー・画による漫画『神々の山嶺』が21年にパトリック・インバート監督によってアニメーション化され、この作品は第47回セザール小アニメーション映画賞を受賞した。

作品のかなりの部分が日本を舞台にしているこの映画に、美術スタッフとして参加したエディン・ノエルが今回の美術監督を務めている。それだけに美しい日本庭園や神社、アメリ一家が暮らす日本家屋の調度品に至るまで、その描き方には違和感がない。また60年代の日本を象徴する曲として、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」が挿入されているのも気の利いたチョイスだ。日本をそのまま描いたアニメーションが、海外で高評価を得ている現状を見ると、日本文化のグルーバル化が加速度的に進んでいるのがわかる。その流れから生まれた映画として、「アメリと雨の物語」はすべての世代におススメできる秀作だ。


(金澤誠/映画ライター)


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