【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#6


「プリーズ・プリーズ・ミー」


  ◇  ◇  ◇


「僕はいま、そのときのレコード・ジャケットをみながらこれを書いている。もうだいぶくたびれてはいるけれど、やはり圧倒的に懐かしい」


 手元にある、この曲の日本での再発シングル盤のライナーからの引用。

書いているのは音楽評論家の八木誠だ。


「結成15周年記念」として、解散後の1977年にリイシューされたシングル盤。今私は、八木誠とまったく同じ気持ちで、この文章を書いている。


 同名のデビューアルバムにも、もちろん収録されているが、イギリスでは63年3月発売のアルバムに先駆け、『ラヴ・ミー・ドゥ』に続くセカンドシングルとして同年1月に発売され、2月にヒットしている。


 そして日本では翌64年に発売される、彼らの初のシングルになる。つまり「日本におけるデビューシングル」だった。


 さて、この『プリーズ・プリーズ・ミー』は、私の「ビートルズ・デビューシングル」でもある。


 確か81年、中3の頃、「カネボウ・プレイガム」というガムのCMでこの曲(のカバー)が流れ、その摩訶不思議な音像に惹かれ、先の77年製シングルを買ったのだ。


 曲の顔となっているのは、ジョンの吹くイントロのハーモニカだろう。「♪ドーシーラー・ソーラソミ」(キーはE)。何だか童謡みたいなメロディーだが、そんな童謡をロックンロールにするのだから、大したものである。


 あらためて聴き直してみて、ずいぶんラフな歌と演奏に驚く。

歌詞もギターも明らかに間違えているのに、OKテイクになっているのだから実に不思議だ。【オリジナル記事で試聴する


 何でも、元々はもっとスローテンポだったのを、プロデューサーのジョージ・マーティンの助言によって、テンポアップし、ポップな仕上がりになったのだという(サザンオールスターズ『勝手にシンドバッド』も同様の経緯あり)。


 タイトルは、また例のあの人らしく「喜ばせて喜ばせて喜ばせて」という意味かと思ったら、1つ目の「プリーズ」は副詞、2つ目が動詞で「僕を喜ばせて、お願い」という意味とのこと。


 結局、カネボウ・プレイガムを買ったことはなかったが、そのCMがきっかけで買ったシングルが、中3の私をたいそう喜ばせてくれた結果、45年後の今、こんな原稿を書いている。ビートルズだけでなくカネボウにも感謝である。


 なお試聴リンクは「2023MIX」。まるで現代のバンドのように音がよくなっている。歌詞の間違いやギターのミスもくっきりと聴こえて、私を喜ばせてくれる。文明の利器にも感謝だ。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。

2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月に発売予定。ラジオDJとしても活躍中。


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